西洋料理サービス講座

 

はじめに

テーブルの上に、ナイフやフォークやグラス類をセットしてみてくださいと言われて、あなたは正しい位置に、これらのものを置くことができますか。ナイフの刃は内側ですかそれとも外側に向けますか。Dessertナイフやフォークは頭をどちらに向けて置きますか。また、サラダはどこに置きますか。Dessertの意味を知っていますか。

ベテランと言われるようになると、料理サービスとはなにか、本来はどうあるべきかを知った上で行う必要があります。お客様も、ベテランに見えるあなたには、一目置きますし、それなりに期待もしています。ここでは、料理や食事サービスにまつわる話題について勉強します。 ここでは、機内ファーストクラス中心に料理サービスを勉強していきます。

(写真) 筆者教官時代 ファーストクラス訓練

 


料理の本質 = 料り理める (はかりおさめる)

 

昔、天子のための料理は、天子の次に位置する宰相のみしか、携わることができませんでした。また、料理のできない者は、高い地位につく資格がないと見なされました。暗殺が横行した時代、料理は、時に、盾を持たなくても、相手を倒すことができる武器にもなり得たからです。したがって、料理とは、本来高い地位にある者のみが携われる最高の芸術であり、哲学であると考えられていました。

元TFK料理長福原氏講演より

 


機内食ッテ・・・

 

機内食の発想は、元来、船からきています。フランス料理やイタリア料理のようであり、ときには日本料理のようでもあります。機内で提供しているのは、実は機内食料理なのです。

船には、キッチンがありますし、食事はダイニングルームでとります。飛行機では、キッチンがCaterer(機内食会社)であり、客室がダイニングルームとなります。したがって、飛行機という種々の制約の中で、地上で調理されたものを、機内で演出し、工夫を凝らし、サービスされているのが機内食料理です。

 


料理人とサービススタッフ

 

「料理には、心が表れる」といいます。調理する人の心持ち次第で、その盛りつけが生きたり、死んだりします。同じことが、サービスする側の人にも言えます。お客様に、いかに料理をおいしく食べていただくか、また、食事を楽しんでいただくかを忘れては、どんなよい料理も死んでしまいます。よいサービスには、サービスする側とお客様の間に一体感があります。お客様に食事を楽しんでいただくための、お手伝い(演出)をするのがサービス側の役目です。

 


機内式サービス

 

ファーストクラスで、皆さんが行っているサービススタイルは、何式ですか。洋食は、フランス式ですか、イギリス式ですか、アメリカ式ですか、それとも日本式ですか。実は、それぞれを混ぜ合わせた機内式なのです。

フランス式
キッチンであらかた調理したステーキなどを、シェフ・ドゥ・ラン(ヘッドウェイター)が、お客様の目の前でブランディーをふりかけ、フライパンに炎がさっと昇るようにして、最後の仕上げをするようなサービススタイル
イギリス式
ローストビーフに見られるサービス方式
アメリカ式
ヘッドウェイターによるサービスは、確かに豪華にみえるが、ヘッドウェイターのようなプロフェッショナルを雇っていたのでは、人件費がかかる。そのため、すべてキッチンで盛りつけしてしまい、お客様のところへはただ持っていくだけの、ウェートレスだけでできる合理的なサービス方式を採用したのがアメリカンスタイルサービス

ファーストクラスでは、長い間、お客様の目前で、Hors D'oeuvreを盛りつけたり、Roast Beefの塊をスライスしたりしていました。いわゆるヨーロッピアンスタイルのサービス方式をとってきました。

最近では、お客様の目の前で、盛りつけることも少なくなりました。いわゆる、アメリカンスタイル方式のサービスになっています。

 


フランス式 = ロシア式?

 

Hors D'oeuvreに始まり、Soup、魚料理、肉料理へと進んでいくのがフランス料理です。このコース式の食べ方が、フランスに入ったのはそれほど古い話ではありません。1800年代初頭のことです。そして、フランス式として定着したのは、1800年代後半です。日本では、江戸時代から明治時代にかけての頃です。

現在のコース式フランス料理は、ロシアの駐仏大使のクラーキン大佐が広めたと言われています。クラーキンが着任したころのフランスでは、Hors D'oeuvreもSoupも、魚料理や肉料理も、大きなテーブルいっぱいに、一堂に置かれているBuffetスタイルでした。一堂に置かれた料理は、一見豪華です。しかし、ある料理を食べているうちに、別の料理が冷めてしまったり、ローソクで保温しているものは煮詰まったりしてしまい、不経済極まりませんでした。

そこでクラーキンは、一品ずつ出して、出来たてのうちに食べてしまう、ロシア式の食べ方を提案しました。それが受け入れられ、現在に至っています。

 


五感+アルファ

 

料理サービスを始める前に、ぜひ皆さんにお願いしておきたいことがあります。それは、お客様の五感をすべて満足させられるサービスを、心掛けて欲しいという点です。口だけで食べるのは「めし」であり、料理は口だけで食べるものではありません。目、鼻、耳、舌、そして触覚で食べます。おいしそうに見える盛り付け、おいしそうな匂い、おいしく感じる味付け、そして音です。鉄板に載せられジュージュー音がしているステーキなどは、まさしく演出され、聴覚を刺激するものです。サービスをスマートに行うのも、お客様の目を楽しませます。

現代では、五感+アルファのサービスを求められます。社会が高度化してくると、お客様の期待も、このアルファの部分にかかってきます。このアルファとは、お客様が気分よく食事ができたかが、サービスの分かれ目になります。そこが、皆さんの腕の発揮しどころです。

 


Menuの話

 

フランスでは、メニューのことをCarte(カルト)と呼びます。このCarteから自分で料理を組み立てるのが、いわゆるアラカルト(a la carte)なのです。一方、フランス語でMenuと言えば、本来はコース料理を意味します。機内では、コース料理を提供していますのでMenuを使っています。

レストランのCarteは、上から順番に、前菜、スープ、魚料理、肉料理、デザートという構成になっています。スープを前菜に組み入れることもあります。Carteの順番どおりに注文しても、食べきれませんので、通常は、前菜とメインコースの2皿が基本となります。メインコースが肉なら、前菜は魚介類、反対に、メインを魚介にするなら、前菜は肉類というように組み合わせれば、バランスもよくなります。

 


Partager (パルタジェ)

 

せっかくの外国旅行だから、あれもこれも食べたいという人は、「Partager」という言葉を知っているとよいでしょう。前菜と魚料理は1皿を2人で分け、メインコースのみを1皿ずつ食べるという希望をかなえてくれます。

 

 

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