西洋料理サービス講座

 

チーズからリキュールまで

 

欧米人とチーズ、デザート

 

日本料亭での会食では、料理をつまみながらお酒を呑み交わします。そして、最後には、かならずお茶漬けやそば類がサービスされます。やはり、日本人にとっては、ご飯かそば゙を食べて、はじめて食事をした気になります。

これと同じように、ヨーロッパ人は、食事の最後にチーズを食べないと、何か物足りなく感じます。ちょっとお腹が空いたとき、何はなくともチーズさえあれば、何とかなるくらい、ヨーロッパにとってチーズは重要な存在です。

 「チーズのないデザートは、片目のない美女のようなものである」
                       (ブリア・サヴァラン)

 


チーズの役割

 

チーズには、

  1. 食前・食中とアルコールの摂取で疲れた肝臓の働きを助けるメチオニン
  2. 胃壁を保護するタンパク質や脂肪分
  3. 肉、酒などの摂取による血液の酸性化を中和するカルシウム

等が豊富に含まれています。チーズがメインコースの後にサービスされる理由がここにあります。また、チーズは消化がよい食品ですので、是非すすめてください。

 


チーズ・パン・ワインは仲良し

 

チーズとパンとワインは切っても切れない仲です。チーズを召し上がっているお客様には、ワインが常にサービスされます。この段階になると、デザートもサービスされ始めます。しかし、チーズコースまでがメインコースです。デザートやFruitsは食後のコースです。

チーズを召し上がっているお客様に、ワインが充分Refillされているか、パンは足りているか、忘れずに確認してください。この頃になると、サービス側はデザートサービスに目が奪われて、チーズを召し上がっているお客様へのサービスがおろそかになることがあります。

 


パン皿はいつ片づける?

 

パン皿を下げるタイミングは、チーズを召し上がっているかどうかが目安になります。チーズを召し上がらないと言われたお客様のテーブルからは、自動的にパン皿を下げてもよい訳です。むしろ、デザートコースに備えて、この段階で、不要なものは片付けます。

 


        「チーズoデザートorフルーツ?」ではダメ!


サービスWagon(Trolley)の上には、チーズ、デザート、フルーツが、一緒に載せられてサービスされることがあります。まずは、チーズを勧めます。そして、チーズを召し上がらないと言われたお客様には、次のコースであるデザートとフルーツサービスに移ります。

「機内では、チーズを注文すると、デザートが来なくなる」というコメントが、食通の旅客からくることがあります。チーズをサービスした後、忙しさのあまりデザートをサービスするのを忘れないように注意します。

 


デザートの意味

 

「後片付けをする」という意味のフランス語DesservirからDessert(デセール)という言葉が生まれ、それが英語になりDessert(デザート)となりました。したがって、デザートをサービスする前に、不要なものは下げ、パンくずなどがあれば掃除します。このときに、いわゆるメインコースの後片付けをするわけです。

また、デザートをサービスするということは、もうこれ以上、メインコースのものは出ませんという意味になります。ですから、デザートの後に、もしチーズがサービスされてしまったら、まったくおかしなことになってしまいます。

 


食事を下げる

 

食事中
皿の上に、ナイフとフォークが八の字に置いてある場合
食事修了
ナイフとフォークが斜めにそろえて置かれている場合

食事がきれいに食べられている場合、それと、ナイフとフォークが皿の上にそろえて置いてある場合は、一言添えながら、皿を下げます。これはCAなら誰でも知っています。

それでは、皆さんがお客さんの立場で、上のことをするとき、ナイフの刃はどちらに向けていますか。フォークの先端を上向きにしていますか、下向きにしていますか。ナイフの刃はどんなときでも、自分の方もしくは内側に向けていますね。他人に向けないのがマナーです。

それでは、フォークはどうですか。食事中を表わす八の字に置くとき、フォークの内側は上に向けておきますか。下に向けておきますか。食事終了のときはどうですか。意識して置いていますか。八の字のフォークは、内側を下に向けて置きます。食事終了のときは、内側を上に向けて置きます。皆さんがサービスをしているとき、お客様はどうしているか観察してみてください。

 


Sweetsコース

 

デザートの中でも、ケーキ類やアイスクリームのような甘み料理のことを、英語でSweets、仏語でEntremets(アントゥルメ)といいます。日本料理と違い、西洋料理では、デザートコース以外では、料理に砂糖を使いません。

CAたちも、食後、いくらお腹がいっぱいでも、「ケーキが入るところは別よ」と言いながら、デザートを食べます。

これは、身体が欲しているのです。アペリティフから始まって、食事中ずっと、アルコール分を摂取してきています。そのため、デザートコースの頃になると、身体がアルコールを分解する糖分を必要としているのです。先人たちは、生活の体験から、食後に甘いものが必要だと考え、食事の最後に、デザートコースをもってきました。食事中、ずっとお酒を飲み続けているお客様には、是非、勧めてください。

 「よい食事の終わりに食べるお菓子は、美しい花火のようなものである」
                            (タレーラン)

 


ワインに合わないデザート

 

デザートには、甘口のシャンペンや白ワインが合います。特に、ボルドー(Bordeaux)地方ソーテルヌ(Sauternes)地区の白ワインが、デザートワインとして有名です。この他にも、ロワール川(Loire)やローヌ川(Rhone)流域でとれた白ワインもよく合います。ドイツライン川流域の甘口白ワインも合います。

しかし、「デザートには甘口白ワイン」と決めつけないでください。デザートの中には、ワインに合わないものもあります。たとえば、

シャーベットやアイスクリーム
舌が冷えすぎてしまいワインを充分味わうことができません。
オレンジのような酸味の強い果物
酸味がワインの味を損ねます。
チョコレートを使ったデザート
濃厚な脂肪分がワインの持ち味をこわす。

 


イタリア人の発明

 

マカロニとアイスクリームは、イタリア人の発明であり、彼らの誇りとなっています。イタリア人に言わせると、
 

  「マカロニとアイスクリームは、
       
イタリアが世界の食事史上になした偉大な貢献である

となります。

また、1500年代初めに、イタリアのメジチ家から、フランスのアンリ2世に嫁いだカトリーヌ・メジチ、まだまだ野蛮な食事の仕方をしているフランスに、いろいろな料理やテーブルマナーを持ちこみました。その一つにシャーベットがあります。フォークをフランスに持ち込んだのもカトリーヌで

した。

 


紅茶は昼の飲物

 

フランスのレストランで、ディナー(Dinner)のあと、紅茶を頼むと、ウェイターが小バカにした態度をとられた経験がありませんか。フランス人に言わせると、「イギリス人は馬鹿の一つ覚えみたいに紅茶を飲んでいる」となります。

歴史を振り返ると、イギリスは紅茶産出国を植民地にし、フランスは、コーヒー栽培が盛んな国を植民地にしました。それが今でも残っているわけです。イギリスは、紅茶をこよなく愛しています。好きな人は、時間に関係なく、飲みます。

しかし、一般的には、ヨーロッパでは、紅茶は明るい時間の飲物であり、コーヒーは夜の飲物というか大人の飲物として位置付けされています。

 


イギリス人と紅茶

 

イギリスで紅茶が広く飲まれるようになったのは、1600年代の中頃からです。1662年にチャールズ2世のもとに嫁いできたポルトガルのお姫様キャサリンが、イギリスにお茶の習慣を伝えました。それが、最新の宮廷趣味となり、上流階級の間でも広まりました。やがて市民の間でも飲まれるようになり、需要が増加していきました。そのため、1700年代になると、インドの植民地で大々的に紅茶栽培が行われるようになりました。

 


英国式茶の心得

 

  1. 茶を飲むときは、スプーンをかならずカップの向こう側に置くこと
  2. 角砂糖は、一度スプーンの上にとってから、スプーンでカップの中にいれること
  3. カップの取っ手を左側に出されたならば、カップを回して取っ手を右側にして飲むこと

 


紅茶用のミルクは室温で

 

イギリスの中でも、紅茶用のミルクは、温めるのか、室温のままか、冷やすのか、今だ議論しています。地方によっても違うし、各家庭によっても違います。デボンシャーティーで有名なデボンシャー(Devonshire)地方では、ティーカップに、まず温めたミルクを入れ、その上に濃い目の紅茶を注ぎます。一方、一般的なアフタヌーンティーでは、紅茶を入れ、そして、室温または冷し気味のミルクを入れます。

筆者が乗務していた航空会社では、長年、紅茶に入れるミルクは温めて提供していました。紅茶をつくる時のお湯は100℃に沸騰したものをつかいます。紅茶は熱くなっているので、一般的イギリス人は、飲みやすくするために少し冷え気味のミルクを入れます。ところが、機内は沸点が80℃なので、紅茶自体が冷めやすいということでミルクは温めていました。

ところが、1993年に、ロンドン線強化キャンペーンを行った際、ロンドン支店からミルクは温めないで欲しいという要請がありました。再検討した結果、一般的なイギリス方式、つまり、「ミルクは室温のままで提供する」ことに決まり、それ以降、機内ではミルクは温めなくてもよくなりました。

 


ミルクが先orあと

 

紅茶を先に入れるか、ミルクを先にいれるか、これも議論が分かれるところです。


デボンシャイヤーティー(Devonshire Tea)の場合は、ミルクを先に入れることになっています。イギリス人CAたちに聞いたところ、彼女たちも意見が分かれました。"ミルクが先"派の人によると、理由のひとつに、ミルクを先に入れると、茶渋がカップの底に付着しないからだそうです。"ミルクが後"派は、「いつもそうしている」からというものでした。

 


紅茶にレモン

 

紅茶にレモンを入れるのは、アメリカ、地中海沿岸諸国、東南アジア諸国です。イギリス人は紅茶にレモンを入れません。どうしてかと言えば、レモンを生産していないからです。反対に、アメリカや地中海沿岸では、その気候から、レモンをたくさん生産しています。生産すれば消費しなくてはなりません。したがって、レモン生産国の人たちは、レモンを活用した料理や飲物を作り出し消費してきました。紅茶にもレモン、コーラにもレモン、カンパリソーダにもレモンを入れます。

日本では、元来、レモンを生産していなかったのに、日本人がレモン好きになったのは、アメリカの売り込み戦略の結果です。アメリカはレモンに高級イメージを持たせ、高級品好きの日本人に売り込みました。アメリカのものは高級なものと考えていた時代の話です。

 


コニャックとブラックチョレート

 

食事の締めくくりは、コニャック(Cognac)とブラックチョレートです。その昔、館での晩餐会では、食事が終わると、婦人は婦人同士でお茶をします。殿方は別の部屋に移り、そこでコニャックなどを飲み、葉巻を吸いながら、食後の男同士の話をしていました。その部屋には、リキュール類とともに、ブラックチョレートが用意されていました。

ファーストクラスやビジネスクラスでは、食後にブラックチョレートをサービスしているのも、この習慣からきています。

 


コニャックにはブラックコーヒーを!

 

大英帝国を築いたイギリスは、17世紀以降、あちこちの国を植民地化しました。そして、植民地でとれた農産物や鉱業原料を世界に売りさばいて、商売をしていました。フランス、ポルトガル、オランダも同じでした。

チョコレートの原料であるカカオ豆は、アフリカで大量に生産され、それがヨーロッパ諸国で消費されました。ココアにして飲んだり、チョコレートにしたりしました。そして、チョコレートがコニャックに合うことが分かり、食後のテーブルに用意されるようになったのです。

戦後になると、植民地は次々に独立していきました。植民地時代のように、簡単には自国に持ってもってくることができなくなりました。また、肥満に悩む欧米人は、時代とともに、チョコレートの代りに、「コニャックにはブラックコーヒーを!」という組み合わせを好むようになり、それが一般的になりました。

 


お客様とのやりとり

 

日本人でも、リキュール類の飲み方を知っている人が、ずいぶん増えています。ブラックチョコレートの代りにブラックコーヒーですから、サービスする時、リキュール類を飲んでいるお客様から、

コーヒーが欲しい

と言われて、

クリームとシュガーはお使いになりますか?

などと聞き返しては、このCAは何も知らないな、と思われるかもしれません。また、ブラックコーヒーを飲んでいるお客様には、さりげなく、

コニャックでもいかがですか

と言えるようになると、コニャックとブラックコーヒーの関係を知っているお客さまからは、一目置かれること請け合いです。

 


 

続きを読む