エチケット3つのポイント
エチケットには、3つの基本的な考えがあります。
(1) 人に好感を与えること
他人に迷惑をかけないようにするだけでなく、人に対して、好感を与える(Charm)ことが大切です。Charmingであることは、欧米エチケットでは、いたるところで、作法として取り上げています。
服装もそうです。TPOに合わない服装は、人に好感を与えません。話し方では、たとえば、断る時、だた"No"と言うのではなく、"No"のあとには、必ず"Thank you"をつけるのがCharmingな言い方だと教えられてきています。食事中に、ガチャガチャ音をさせたり、ゲップを出したりするもの、相手が嫌がる振る舞いなので、決してCharmingとは言えません。
(2) 人に迷惑をかけないこと
"人に迷惑をかけない"は、裏かえせば、"人におもいやりのある行為をする"ということになります。エチケットには、Outdoor EtiquetteとIndoor Etiquetteがあります。「相手に好感を与える」行為は、どちらかというと、Indoor Etiquetteに多く見られます。これに対し、公共での振る舞い(Outdoor Etiquette)も、欧米では、重要なエチケットとなっています。公衆の秩序とか公衆道徳を守ることが、エチケットをわきまえた人間と見なされます。他人に迷惑をかけないことも、子供のときから厳しくしつけられます。
(3) 人に敬意を払うこと
他人に対する敬意や尊敬は、礼儀作法の基本をなすものです。欧米のエチケットのみならず、どこの国の礼法でも、重要なこととして取り扱っています。特に、欧米社会では、女性に対する敬意・尊敬は、"Lady First"と呼ばれ、エチケットの中でも、大きく取り上げられています。
友田二郎著「国際儀礼とエチケット」より
エチケットとマナー
エチケットは、他人への思いやりに基づく、行動の規範(Code)であり、よいマナーとは、この規範に則って生活しようとする人々の暖かい心、善意の表れ(Evidence)である。-エミリー・ポスト-
つまり、
エチケットは、社交上の型、人づきあいをなめらかにするための
常識的なルール・技術
一方、
マナーは社交上の心、相手に対して
自分が取るべき態度・処置
たとえば、知人を見かけたら、挨拶をしに行くのがエチケット、相手が取り込んでいて、挨拶を交わすどころではない様子だったので、黙礼だけして、後できちんと挨拶をするのがマナーです。 -塩月弥栄子-
相手を喜ばせ相手に尽くすのが、
マナーの出発点であるとともに終着点である
-加瀬英明―
エチケットとマナーの本
日本では、礼儀作法関連本のタイトルに「マナー」を使うことが多いです。欧米では、いわゆる「マナーの本」は売られていないのをご存知ですか。
実は、筆者も、エチケットとマナーの違いに興味があり、乗務でニューヨーク、サンフランシスコやロンドンに滞在しているとき、現地の本屋で関連本を探してみました。売られているのはエチケット本だけなのです。
前述のように、マナーとは自分がとるべき態度・処置で、周囲に対する気持ちの問題を指します。よく考えると、態度・処置というのは、人それぞれですので、本にならないのです。テーブルでの作法、手紙の作法など、具体的な作法でしたら本として出版できます。アメリカでは、たとえば、古くから有名な作法の本に「Etiquette」エミリー・ポスト著があります。この本には、それぞれの作法が書かれています。
外務省儀典官だった友田二郎さんが書いた「国際儀礼とエチケット」、春山行夫さんの「エチケットの文化史」のように、礼儀作法の本は、「エチケット」のタイトルをつけるのが本来の姿です。
Etiquette and Manners
「マナー」と「エチケット」を、強いて日本語に当てはめると、マナーは「行儀作法」、エチケットは「礼儀作法」となります。「マナーが悪い」「行儀が悪い」というように、どちらかというと良し悪しで評価するのが「マナー」です。そして、マナーをよくするには「しつけ」が伴います。
一方、「礼儀にかなっている」「エチケットを知っている」のように、作法を知っている・知らない、できている・できていないで評価するのが「エチケット」や「礼儀作法」です。その知識がないとできないのがエチケットや礼儀作法なのです。したがって、「礼儀が悪い」「エチケットが悪い」という表現にはなりません。
英語辞書を調べると、下記の意味がでてきます。
- Manner・・・方法 仕方 態度 様子 挙動 (pl.) 行儀 作法 風習 習慣
- Etiquette・・・ 礼式 礼法 礼儀作法 (同業者間の) 礼儀 仁義
* マナーは、作法を意味するときは、「Manners」と複数形になります。
- マナー・・・「行儀作法」→「マナーが悪い」「行儀が悪い」
- エチケット・・・「礼儀作法」→「エチケットを知っている」「礼儀にかなっている」
赤白と黒白の水引
私がいた会社でロンドン基地ヨーロッパ人CAを初めて採用したときのこと。
CA訓練が始まりました。日本の航空会社で働いてもらうのだから、普段、日本人がどんな生活をしているか知ってもらうのもよいだろう。訓練部長の発案で、訓練生たちを教官の自宅に招待するということになった。
彼女たちを2~3人ずつの組に分けて、土日に、それぞれの教官の家に行かせた。家族総出で出迎えて食事を振るまったり、住んでいる町を案内したり、神社に連れて行ったり・・・。訓練センターにいるだけでは分からない日本人の生活に触れて、訓練生たちは目を丸くしたり、各家庭でのおもてなしに感動したりしていた。
次の月曜日、授業の休み時間に、ぞろぞろと訓練生たちが教官室に来て、それぞれお世話になった教官にお礼を述べている。
ある教官のところに来た訓練生が、なにか黒い感じの封を渡している。中にお礼の手紙が入っているので、あとで読んでほしいとのことでした。その封を受け取った教官はビックリ、それは黒白の水引、
「お前さんたち、これはどこで買ってきたんだい」
イギリス人訓練生曰く
「生協のショップで買ってきました」
「赤と黒がありました。黒のほうが格が上かと思い黒の封筒にしました」
マナーの国からやってきた彼女たちお世話になった人のお礼をする。さすがマナーがよい人たちです。残念ながらエチケットに叶っていませんでした
黒白の水引はどのような時に使うのか知りませんでした。知っていれば赤白の水引に手紙を入れて持ってきたはずです。知らないとできないのがエチケットなのです
Lady Firstの話
発生的には、キリスト教精神や中世の騎士道からきています。優雅で、弱者である女性をいたわり、かばうことが、男子の品位や力を示すゆえんとなっていました。(ヨーロッパ)
建国当時のアメリカには、女性が少なく、子孫繁栄や健全な家庭を築くには、大事な存在でした。そこで、男たちは、女性を大切にしました。たとえば、馬車が走っていた時代には、女性と並んで歩くとき、男子が車道側になるのは、当然のエチケットであり、マナーでした。(アメリカ)
"Left hand lady is not a lady"
婦人と歩いたり、同席したりする時、男性は女性の左側に位置する
この言葉も、女性を守ることからきたものです。人間は右利きが多いため、なにか起きた時、利き腕で女性を守るためです。
プレイボーイの心得① 女性を口説くときは、必ず、女性の左側に位置しろ。左耳にささやきかけ、右脳に訴えろ。その方が効果ある。 |
Ladyとは
Ladyと呼ばれるためには、女性側にも、それに即したマナーが求められます。
Ladyは、第一に、態度を優しくすること、そして、気品と節度、謙虚と思いやりが求められます。Ladyにふさわしい言葉として、「親切」「優雅」「善意」「聡明」「自尊」「礼儀」があげられます。エミリー・ポスト
これらが備わってはじめて、"Lady First"の扱いを受ける資格があると言えます。
(参考) Ladyの発音は、「レディ」ではなく、
「レイディ」です。お間違いないよう!
Noblesse Oblige
フランス語にノブレス・オブリジュ(Noblesse Oblige)という言葉があります。人の上に立つ者の心得として、現在でも、社会で活躍する欧米人の行動規範になっている言葉です。
騎士道の中世封建時代に、国王や諸侯の家来である貴族たちは、「貴族はその身分にふさわしく振舞わなければならない」「位高ければ、徳高かるべし」と教育されました。貴族たるものは、支配層として、文武のみならず、礼儀作法やマナーにも精通していなければなりませんでした。
子供ころから、水泳などもろもろの運動で身体を鍛え、キリスト教の教えをうけ読み書きを習う。また、食卓の作法など宮廷生活の行儀を覚え、吟遊詩人から音楽について学ぶ。また、主君の奥方など婦人への接し方を覚えます。とくに、女性崇拝については、騎士道の大きな特徴となっています。また、14才になると、騎士見習いになり、軍事訓練を受け、21才で正式な騎士となりました。
騎士は、いざ戦いになれば、先頭にたち、敵に突き進んで行きました。部下に先頭を行かさせるような者は、騎士としての資格がないと考えられていました。この考えは、欧米社会では、現代でも、脈々引き継がれています。
「ヨーロッパ社会と国際マナー」南村隆夫著より
Mind your Ps and Qs
子供が、友だちの家に遊びに行くとき、イギリスの母親は、子供に、「Mind your Ps and Qs」と言って送り出します。他人様の家に行ったときには、「プリーズとサンキューを言うのを忘れないようにね」という意味です。Psは"Please"、Qsは"Thank you"の「キュー」から来ています。複数形になっているのは、その言葉を何度も使いなさいという思いが含まれています。
この言葉は、大人同士でも使います。失礼な言い方や態度をとったり、迷惑行為をしていたりしていると、この言葉を使って注意します。この言葉を言われるのは、大人としてとても恥ずかしいことですので、多くの場合は、態度を改めます。
大切なお客さんのところに行く部下に向かって、上司が部下にこの言葉を使うこともあります。この言葉には、「P」と「Q」を間違えるなよ、ものごとの順序を間違えるなよ、という意味も含まれています。
「大人の女のマナー」
随筆家の中谷彰宏さんは、「サービス」に関わる著作をたくさん出しています。最近では、サービス産業に携わる人たちに、多大な影響を与えている人です。その彼が書いた本に、「大人の女のマナー」PHP出版があります。マナーから見た「女の子」と「大人の女性」の違いが述べられています。たとえば、「おごられるマナー」の項目では、
「いい女だから、おごられるのではありません」
「おごられるから、いい女になっていくのです」
そして、そのためには、
- おごられるより、おごる方がカッコいい。そのカッコよさを、相手に味わわせてあげるのが、おごられる側のマナーです。
- 無理に、払いますと抵抗してはいけない。感謝の言葉を忘れないことが大切です。財布を出すしぐさなんてしなくてもいい。気持ちのよい「ごちそうさま」のほうが、払った方はうれしい。
- おごられることに抵抗を感じるのなら、誘われた時点で断る。
- 彼が求めているのは、お返しではありません。感激してもらうことなのです。「わあ、おいしい」「こんなの初めて」「わぁ、すてき」という、あなたの大きな反応が、立派なお返しなのです。
- 感謝は、5度言う。
- 支払いをしたときに、ごちそうさま。
- 店を出たときに、ごちそうさま。
- 別れ際に、ごちそうさま。
- その日の夜、電話で、今日はごちそうさま。
- 次に会った時に、この間は、ごちそうさま。
- おごられ方は、おごることで覚える。おごられる側ばかりだと、おごられるマナーは覚えることができません。たまには、後輩におごってみる。おごることをしている女性は、おごる側の心理がわかるので、おごられるマナーが身につくのです。
とアドバイスしています。一つの例を書きました。後輩や部下を持ったとき役に立つ本です。
エチケット・マナーの由来、いくつかの例
- The Handshake (握手)
- It was first used as a gesture of friendship and peace by primitive men who wished to show their hands were empty of weapons.
手に武器を持っていないことを表すのが始まり - Doffing one's hat (紳士が帽子をあげての会釈)
- Dates back to the days of Chivalry(騎士道), when friendly knights in armor(鎧兜) raised their helmet visors(顔の部分) to be recognized, originated in Medieval(中世) times.
騎士道時代、剣試合の時、騎士たちは、兜の顔の部分を上げ、相手に顔を見せる動作を行っていた。 - Coming Out Party (仏) テビュタントDebutante
- These parties have their origin in the ancient customs of secluding females until they reached the marriage age.
社交界へのデビュー
エンサイクロペディア百科事典
サービスとマナー
再び、中谷彰宏さんの言葉を紹介します。
サービスとマナーは、1つのものを両面から見たものです。どうすれば、あなたの大切な人に喜んでもらえるか、幸せをあたえることができるかが、マナーの基本です。
ホテルの人は、お客さんに喜んでもらうことがサービス(仕事)です。それに対して、お客さんの立場に立ったときに、覚えておかなければいけないマナーとは、『どのように喜ばせていただくか』ということです。いいマナーを持っていないと、いいサービスは受けられません。いいマナーを持っているお客さんが来たら、いいサービスをしなければなりません。
サービスとマナーは車の両輪です。両方よくなっていくこともあるし、両方悪くなっていくこともあります。『この店はサービスが悪い』といって怒る前に、あなたのマナーはどうか考えてみてください。あなたは、自分のマナーに合ったサービスを受けることができます。いえ、自分のマナーのレベルに合ったサービスしか受けることができないのです。
サービスする人も、どこかでお客さんになることがあります。お客さんの立場に立たないと、サービスは覚えられません。マナーも覚えることができません。よいサービスのできるサービス人間は、よいマナーを持っているお客さんなのです。