陰陽の話
中国の易経では、
『天地万物は、すべて陰・陽の二つの気から生じ、
この二つは相反する性格を持つ』
との考えを説いています。万物は、"表と裏"、"前と後ろ"、"上と下"というように2つの面を持っています。主だったものには、次のようなものがあります。
陽 ― 日・男・南・春・夏・上・昼・天・火
陰 ― 月・女・北・秋・冬・下・夜・地・水
人間の身体・性情などにも、陰陽があります。サービス業では、お客さまには、常に、"陽"を見せるよう努力します。
手の陰陽
「手」を例に挙げると、手のひらは「陽」(Affirmative)であり、手の甲は「陰」(Negative)です。旅客はCrewの一挙手一動を見ています。客室の雰囲気は、担当Crewで決まります。「陰なCabin Crew」にサービスされるほど、空の旅がつまらなくなることはありません。誰もが、「陽なCabin Crew」からサービスを受けたい、と思っています。
そのため、表情を明るく、笑顔を絶やさず、ハキハキした態度でサービスするよう言われます。しかし、それだけでは不充分です。
幽霊やお化けの手を思い出してください。幽霊は、手のひらを決して見せません。見せれば、「陽」になってしまいます。「陰」である手の甲を見せることによって、幽霊の恐さを出しています。いくら顔を恐くしても、手つきが陽になっていては、チグハグな幽霊になってしまいます。
一生懸命、明るく振舞っているのだけど、旅客に、「あのCabin Crewは作り笑いをしている」とか、「あれは営業スマイルだ」と言われることがあります。そのCrewをよく観察してみると、表情は「陽」だけど、しぐさが陰になっていることがあります。
幽霊はすべてを「陰」にしなければならないように、Cabin Crewはすべてを「陽」で固める必要があります。
口に手をあてる
女性が笑うとき、口に手を持っていくしぐさがあります。口にあてた手は、手のひらが相手に見えるようにしている場合と、手の甲が見える場合では、印象がまったく違います。魅力的に見えるのは、当然、陽である手のひらが相手に見えるようにしている女性です。箸が転んでも可笑しい年頃の女高生たちは、思いっきり手の甲を見せ、口に手をあてています。これは女性ではなく、女の子のしぐさです。
手をだらり
サービスの合間に、何することなく、Doorサイドに立っていることがあります。自分の指の長さを見せたいのか、旅客に、手の甲を見せている人がいます。本人は、それの方が魅力的に見えると思っているのでしょうが、そうではないことに気がついて欲しいものです。
日本舞踊
日本舞踊を見ていると、踊りの中で、いろいろなしぐさを表現しています。その一つに、襟足をなおすしぐさがあります。師匠と呼ばれる人は、手のひらがさりげなく見えるように襟足をなおしています。
Cupを持つとき
ティーカップを持つときはどうでしょう。取っ手に人差し指をつっこんでカップを持っている人、親指と人差し指でつまんで持っている人、小指が立っている人、人それぞれです。取っ手に指をつっこんでいる人は、手のひらを見せることができません。親指と人差し指で持っていれば、飲むときに、ちょうど手のひらが見える状態になります。
腕の陰陽
手と同様に、腕にも陰陽があります。ファッションショーのモデルの歩き方を思い浮かべてください。舞台を歩くとき、腕は、やはり、"陽"に見えるようにしています。
腕の場合、肘が「陰」であり、腕の内側が「陽」となっています。ファッションモデルは、「陰」の部分を観客に見せてしまうと、魅力的に見えないことを知っています。そのため、舞台では、腕の内側が見えるようにし、できるだけ肘が見えないようにして歩きます。肌が出る夏場など、腕のちょっとしたしぐさに気をつけると、魅力的に見えます。
身体の陰陽
身体全体では、前面が「陽」です。モックアップ訓練の時、教官から、お客様にはお尻を向けるな、とさんざん言われたと思います。お尻を向ければ、男性客が喜ぶからではありません。これは、背中やお尻が「陰」だからです。
Cabin Crewは、オンステージにいます。シートに座っているお客様は観客です。観客は、いつも、オンステージにいるCrewに注目しています。舞台俳優の場合は、ときに「陰」を表現することがありますが、Crewは、どんな場合でも、今サービスしている相手(お客様)に「陰」を見せてはいけません。Cabin Crewの仕事は、お客様が旅を楽しむお手伝いをすることにあるからです。
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