エチケットとマナー講座

 

チップ(TIP)の話

日本では、チップをもらうことはほとんどありません。もらったことがないから、日本人は、チップを払うことが身についていません。昔、日本でも、花柳界などで、『おひねり』といって、心づけを渡す習慣がありました。江戸の町中でも、『釣りはいらね、とっときな』が聞かれました。筆者の84才になる母親は、若い頃、料亭で仲居の仕事をしていました。お客さんから、よく『おひねり』をもらったそうです。その母親は、ときどき美容院にいきます。帰ってくると決まって、

『ちょっと髪を切ったら、5000円も取られたよ、高いねー』
と言います。
『でも、美容院の若い子たちがよくやってくれるので、お茶でも飲んでと別に2000円あげてきたよ』

心づけをもらう喜びを知っているから、人にチップをあげるのが嬉しくてしょうがないのです。

 


チップ(TIP)の語源

 

エンサイクロペディア百科事典の「TIP」の項を開くと、

"Tipping began when wayfarers(旅人) wished to show their appreciation for the food and lodging they receive at monasteries(男の修道院) and abbeys(女の修道院)".

巡礼の旅人が、旅の途中、宿泊と食事を提供してくれた修道院や教会へ、お礼にと献金をしていったのが始まりです。

 


チップ(TIP)の意味

 

To Insure Promptnessつまり、「迅速性を保証する」の頭文字からきています。
たとえば、レストランで迅速にサービスをしてくれ、楽しいひと時を過ごすことができた。ホテルスタッフにプラスアルファのことを頼んだら、迅速にしてくれた。これらに対して、感謝の気持を、お金で表すのが現代のチップです。

よい思いをしたい、いい気分を味わいたいと思うなら、タダではないことを忘れてはいけません。

 


チップ(TIP)の歴史

 

人が神に、感謝の気持を表すために献金をしたのが始まりでした。人が人に、感謝の気持をお金で表すようになったのは、1800年代の中頃です。グランドホテル時代の幕開けが、この時代にありました。豪華な館をつくり、誰でもが、宮廷気分を味わえるようにしました。ホテルスタッフたちは、お客様を王様のように扱いました。王様気分を味わうことができたお礼に、感謝の気持をお金で表しました。

 


チップを払える身分

 

現在でも、欧米は、『チップを払える』ことに、価値を見出している社会と言えます。大衆はチップを払う余裕がありません。チップを払えるということは、自分が、社会的、経済的に、それなりの地位につくことができた証拠です。そのため、欧米人は、チップを払うことに躊躇しません。それ以上に、いかにチップをスマートに渡すか、いつも考えています。

タクシーを呼んでくれたドアーマンに、料理に合ったワインを選んでくれたソムリエ等、サービスする人たちに、さりげなくチップを渡すことができるようになれれば、一人前だと考えています。

 


財布からチップを取り出さない

 

欧米のレストランやホテルで、これから楽しいひと時を、と思っているのなら、ポケットには小銭を用意しておきます。それも、数回分のチップを払うだけの小銭が必要です。小銭がないから、チップを払わないなんて人は、サービスを受ける資格がありません。

<チップは、財布から出すのもではない>ことも覚えておいてください。財布からチップを取り出すのは、チップに慣れていないことを表現しているのと同じです。また、公共の場所で、財布の中を、他人に見せないのも常識です。せいぜい見せても、小銭入れくらいです。

「大人の女のマナー」中谷章宏著より

 

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