日本料理 雑学
日本料理の運び方
機内で、Meal Trayを運ぶときやServing Trayで飲み物などを運ぶときは、低めの位置にしています。座っている旅客の目線より高すぎると、なにがTray上に載っているのかわからず、旅客は不安になるからです。また、何かあったとき、飲み物などをおもいっきり旅客にかけてしまったりします。特に熱いものがTray上にある場合は気をつけています。機内ではやむ得ず低い位置でTrayを持っています。日本料理の運び方には、運ぶ物の大きさや形、内容によって3つの形があります。
- 目通り
- 目上の人に捧げたり、何かをいただいたとき、それを両手で持ち、目の高さまで捧げる。最高の感謝と謝意を表す持ち方
- 肩通り
- 通常の持ち方で、物の上辺が肩の高さにくる持ち方
- 乳通り
- 物が乳の高さくらいになるような持ち方
大事なことは、自分の吐く息が料理にかからないように注意することです。
幕の内弁当と松花堂弁当
歌舞伎の幕間に食べるのが幕の内弁当です。歌舞伎の食堂でも、客席でも食べられるように作られています。松花堂弁当は、京都近郊の八幡松花堂という寺院での、茶会席で出された弁当が始まりであるという説と、松花堂縁高(5~6cm)という器を、十文字に仕切り、料理とご飯を盛りこんだ弁当という説があります。料理内容については、両方とも、特に決まりはなく、時代とともに変化します。
すし
すしは、もともと関西で生まれました。関西のすしは、作るのに日数がかかる押しずしでした。この押しずしは、江戸にも伝わりましたが、あまり定着しませんでした。代わりに、にぎりずしが生まれました。この握りずしを作りだしたのは、江戸本所元町のすしや鮓屋与平衛です。彼は、江戸前でとれるエビやコハダなどの新鮮なネタに、ワサビをつけて握るすしを考案しました。それが江戸中に広まり、江戸前のにぎりずしとなりました。江戸時代の文政年間のはじめのころです。「寿司」という字は当て字です。正式には「鮨」だそうです。
海岸文化料理
日本は、気候風土、地形の恩恵を受け、海の幸、山の幸と食材の種類は豊富でした。季節が変わるたびに、新しいものを食べることができました。いつも新鮮なものを手に入れることができましたので、新鮮さに重点がおかれています。
一方、ヨーロッパなどでは、限られた食材を大切に貯蔵し、同じものを繰り返し食べる必要がありました。そのため、飽きないように味付けを工夫することに重点が置かれるようになりました。西洋料理は、ソースに重点が置かれているのはそのような背景からです。
日本人は「新鮮なもの=生もの」を好みます。そのため料理人は、いかに新鮮さを出すかを求められるようになりました。そこで板前さんたちは、料理というより目を楽しませることにエネルギーを注ぐようになりました。『日本料理は目で食べる』といわれる所以が、日本の地形や気候風土から来ていることが分かります。また、このような食料事情が、日本人を新しいもの好きにしています。
包丁文化
日本料理の特徴として、
素材のよさ = 料理のよさ
という図式が成り立ちます。そして、新鮮な素材で、目を楽しませる料理をつくるために、さまざまな包丁が考案されました。最初は、魚をさしみにして食べていたのが、目を楽しませるために、だんだん「お造り」へと発達しました。技巧をこらしたお造りをつくるためには、それにふさわしい包丁が必要となりました。魚料理だけでも、
出刃包丁 さしみ包丁 ふぐ刺し包丁 うなぎ包丁 ハモ骨切り包丁
などがあります。包丁さばきできなくては、よい料理人にはなれません。
うま味
欧米人の味の基本は、「甘い」「塩からい」「酸っぱい」「苦い」の4種類だそうです。そのためか、アメリカ料理などその典型ですが、欧米の食事はなんとなく大味すぎると感じる日本人は少なくありません。
欧米の4種類の基本味に対して、日本には、もう一つの味が存在しています。それは「うま味(旨味)です。味噌、醤油、昆布、鰹節、煮干、シイタケなどでダシをとります。このダシに含まれているのがうま味です。科学的に分析すると、このダシは、食品が自己分解したときにでてくるアミノ酸だそうです。
うま味 = アミノ酸 = 日本人の味
となります。そして、池田菊苗博士が、明治41年に、昆布のうま味成分がグルタミン酸ソーダであることを発見しました。また、その後、イノシン酸やグアニル酸などの核酸系もうま味物質であることが分かりました。
安定(安心)食品
海外滞在中、体調がよくないとき、仕事で疲れたときなど、日本食が欲しくなります。現地の食事は食べる気がしないが、お寿司なら食べたいということがあります。
研究によると、人が成長して、なにか緊張するようなことに出くわしたとき、親しみある味のものを食べると、精神的に安心を得られることが分かりました。
精神的に安定しているときは、現地の食事を平気で食べている人も、なにか緊張があったりすると、食べ慣れているものが欲しくなります。その食べ慣れているものとは、日本人にとってみれば、しょうゆ味が基本となっているものです。また、日本人ひとりひとりにとってみれば、それはおふくろの味です。
安心して食べることができるものを安定食品(安心料理)と呼んでいます。
Wet and Dry
日本人がウェットな国民であるのは、その食生活に多いに関係がありそうです。海の幸、山の幸をふんだんに使っていますが、どの料理もウェットです。
一方、欧米料理は、気候風土の関係から保存がきく食品が多くなりました。また狩猟民族は、常に移動していましたので、持ち運びに便利な食品が発達しました。ビーフジャーキーなどは、その典型で、西部開拓時代の名残と言えます。ハンバーガーもそうです。日本人は、ハンバーガーを飲物なしで食べるのはちょっと、という感じを持ちます。彼らは平気です。
典型的な日本人は、やはり、ウェットな食事を好みます。つゆがたくさんのうどん・そばなどはウェットな食事の典型です。そして、安心して食べることができます。
最近では、若い人たちの食生活も欧米風になってきていますので、ドライな人間が増えていくことは確実です。
肉食と菜食
旧日本軍がアメリカに負けたのは、食事の違いも多いに関係があると言われています。アメリカは、何事も科学的に研究するのが好きです。アメリカ軍も、戦闘的な兵士をつくるために、食品の研究をさかんにしました。肉食は人を攻撃的にすることが分かりました。そのため、米軍兵士に、おおいに肉類を摂取させました。一方、日本軍兵士は菜食を強いられ、精神論が優先していました。仏教が精進料理のような菜食を勧めるのは、人間の欲望や攻撃的な性格を取り除くためです。
参考文献
- 「日本料理のサービスマナー」市川安夫著 柴田書店1993 (CA必読本)
- 「食の文化史」大塚 滋著 中公新書 1975
- 「たべものと日本人」河野友美著 講談社現代新書1992
- 「肉食の思想」鯖田豊之著 中公新書 1969
- 「日本料理―こつのこつ」 中谷文雄著 柴田書店1989