会席料理と懐石料理
会席料理は、お酒を楽しむための料理です。これに対し、懐石料理は「お茶」をおいしくいただくための料理と理解すると判りやすいと思います。同じ発音なので、懐石料理は別名「茶懐石」とも言います。
茶懐石は茶道からきていますので、千利休の時代、つまり織田信長、豊臣秀吉の安土桃山時代(1500年代後半)に完成されました。茶道の影響もあり、食事の作法も細かく決められていました。
江戸時代後半になると、武家社会であるにもかかわらず、商人が財をなすようになりました。そこで、あまり礼儀作法にしばられずに、ぜいたくな料理を豪華な食器で楽しむ酒席料理が好まれるようになりました。それが会席料理です。
ご飯
酒と料理を楽しむのが会席料理ですので、「ご飯」は最後に提供されます。よく飲んだし、よく食べた、だけど何かもの足りない。そのような人を腹くちくするために、ごはんを香の物、汁物と一緒に提供します。場合によっては、代わりに「そば」が提供されることもあります。
茶懐石では、「ご飯」や「汁物」は、最初から提供されます。最近の機内では、茶懐石の思想が強くなっています。もちろん、お酒を楽しんでいるお客様には、ご飯の提供はしばらく控えます。
「お酒をお楽しみのようですので、ご飯などは、後ほどお持ちしたいと思いますが、いかがでしょうか」
とお知らせしておきます。懐石料理的に召し上がっているお客様には、懐石的サービスを、また、会席料理的に楽しんでいる方には、会席的サービスを、という具合に、お客様に合わせたサービス技量が必要です。
しのぎ
メニューに「しのぎ」と表示されることがあります。しのぎとは、ご飯、香の物の別名です。
よそう
ご飯は「よそって」ください。「よそう」を漢字で書くと、「装う」となります。したがって、見た目を大切にしてください。ごはんをよそうときは、飯碗に7~8分目くらいです。そして、ごはんはふわっとした感じによそいます。料亭などでは、お酒を飲んだ方には、3、4口で食べられる程の量にしています。
山盛りごはんは、「一膳飯(いちぜんめし)」と呼ばれます。皆さんも知っているとおり、仏前へのお供えの時の盛り方です。また、一膳飯は、永遠の別れを意味しますので嫌われます。
機内でも、ごはんは美しくよそって(装って)ください。
日本とフランス
フランス料理がコースサービススタイルになったは1800年代後半です。それまでのフランスの貴族たちは、ビュッフェスタイルで食事をしていました。ビュッフェスタイルだと、一見豪華に見えますが、実際に食べる頃には、冷えてしまったり、煮詰まってしまったり、そのあげく大量に残ってしまうこともありました。
そこで、1800年代初頭に、駐仏ロシア大使のクラーキン大佐は、一品ずつサービスをして、できたてのうちに食べることができる、ロシア式のコーススタイルを提案しました。それが受け入れられ、1800年代後半には、現在のフランス料理の型が確立されました。それがフランスの豪商たちにも広がっていきました。むしろ、豪商たちが広めたと言った方が正しいかもしれません。
おもしろいことに、日本でも、1800年代初頭(江戸時代後半)に、町人文化が栄え、会席料理が広まりました。現在では、この会席料理が、日本料理の主流となっています。
吸い物
それまでに食べていた前菜や、酒のために甘くなっている口の中を、すすぐ役割を果たしているのが吸い物です。それだけでなく、吸い物は、お客様に季節を知らせる役目もしています。そのため、椀種(わんだね)には季節ごとの旬の材料を用います。白身の魚がよく使われます。吸い物には、椀種のほかに「つま」と呼ばれる「あしらい」と「吸い口」が入っています。
- つま
- 三つ葉、せり等の野菜、松茸などのきのこ類、海草
- 吸い口
- ゆず、木の芽等季節の香り
機内でお吸い物を準備するとき、椀種、つま、吸い口の3種類が入っているか確認してください。
椀もの
会席料理では、椀ものが2回提供されます。最初に出すのが吸い物で、料理の最後の方に出されるのがみそ汁です。機内メニューには椀(吸い物)ならびに留椀(みそ汁)と表してあります。留椀は「止め椀」ともいいます。これですべての料理が終わる(止める)というところから止め椀と呼ばれています。
機内、会席、懐石献立比較
- 会席料理
- 前菜
- 吸い物
- 造り
- 煮物
- 焼物
- 揚物
- 蒸し物
- 酢の物
- ご飯
- 香の物
- 果物
- ファーストクラス
- メニュー例
- 先付
- 前菜
- 椀
- 向付
- 小鉢
- 煮物
- 台の物
- ご飯
- みそ汁
- 香の物
- 水菓子
- 和菓子
- 懐石料理
- 飯
- 汁
- 向付
- 煮物
- 焼物
- 強肴
- 箸洗
- 八寸
- 香の物
- 菓子
向付(むこうづけ)
会席料理の前菜にあたるもので、刺身などが使われます。お膳(折敷)の向こう側に置いてあるのでこう呼ばれます。
強肴(しいざかな)
季節の野菜や魚鳥などの炊き合わせや和え物などを指します。酒の肴になるようなものです。
中鉢 (煮物)
客が食べてくれないのが煮物で、料理人にとって難しい料理のひとつです。最近では、中休み的存在として提供されます。次に出る料理への期待感を感じさせるように、量は少なめで、食欲をそそるような色彩と美しい盛りつけがポイントです。
箸洗(はしあらい)
今までの料理に一段落つけ、箸を洗い、さっぱりと口直しするものをいいます。椀物を指します。
八寸(はっすん)
食事の最後に、主客が酒を飲み交わすときの酒の肴をいいます。八寸サイズの膳にのせて提供するため、このように呼ばれます。
酢のもの
他の料理はほとんど酸性であるので、アルカリ性食品である酢のものが提供されます。酢のものは食欲を増進させ、口の中をさっぱりさせ、疲労回復にも役立ちます。そのため会席料理では、酒を飲むときはかならず酢のものを食べて欲しい、ということから、わざわざ膳の中央において提供するのが定式です。
ケータラーの悩み
日本料理には、五味五色五法の定式があり、料理人は、それらをすべて満たさなければなりません。和食は、出発の約7時間前から料理を始めます。時間の関係から使う食材に制約があります。その典型は、生ものの使用に制約があることです。
さらに、和食では、季節を出すために、旬のものを使わなくてはなりません。しかしながら、機内メニューは、同じものが3ヶ月も4ヶ月も続きます。4月の段階で旬だったものも3ヶ月もすると、同じものが名残になってしまいます。
お茶の効能
緑茶には、遊離アミノ酸やカテキン類が含まれています。これらはガンの発生抑制、血中コレステロール低下、血圧上昇抑制、抗ウィルス、虫歯予防、精神リラックス、アルツハイマー病予防などの効果があると言われています。また、ビタミンCやミネラルも含んでいます。これらの効能を知ると、お茶サービスもおろそかにできません。
提供するお茶
会席料理などでは、食事中のテーブルに、水やお茶はほとんど置かれていません。これらは料理の味を落とすからです。その代わり、食事が終ったあとで、熱いお茶を充分提供します。
食事の前に出すお茶が「煎茶」で、食後に出すのが「ほうじ茶」か「番茶」というのが原則です。機内では、煎茶のみ提供のように、そこまでの使い分けをしていないことのほうが多いですが、知っておくとよいでしょう。
お茶サービスのポイント
本来のお茶の提供では、下記のポイントがあります。
* 茶托は右横を右手で持ち、茶托の木目が客に向かって横になるようさし出
す。
* 茶碗の正面(絵模様があるほう)を客に向け、茶托と茶碗の正面を合わせる。
* 「お茶をどうぞ」または「お召し上がりください」とひと言そえる。
* お茶の味と香りは非常に微妙なので、注ぎ足しはしない。
* おかわりは、別の茶碗に新しいお茶を入れて出すのが正式。量は7分目まで
入れる。
* おかわりのときは、かならずTrayを使い、茶碗を手で持ち運ばない。
参考 「日本料理のサービスマナー」市川安夫著