外資CAの生活日記(タイ編)

 

 

タイの航空会社で乗務していたYokoさんに、タイのことや乗務でのエピソードを、乗務の合間に、綴っていただいたものです。

 

No 01 異文化経験

 

ラストフライト

 

私は、オフの日に外出する際、賃貸しているコンドミニアムが駅前ということもあり、移動手段の一つとして電車(BTS)を利用しています。電車は、ドイツ製車両で、5分から10分間隔で中心街を走るモダンな高架鉄道です。

私の行動範囲はあまり広くはありません。電車で大体10~20分のところに行くくらいです。それに、休みの日にときどき利用する程度です。それだけの短い区間を乗っているだけでも、この国の独特な文化を感じられるので、電車移動は好きです。

日本では、妊婦さん、怪我人、お年寄りの方々に優先して席を譲りますが、この国では、子どもたちにも優先して席を譲ります。

子どもといっても、乳幼児だけではなく、小学校低学年を超えた育ち盛りの丸々した子どもにも、大人が席を譲っているのを見ることがよくあります。以前、私の目の前に小学生くらいの子どもが立っていたのですが、そのまま譲らすに座っていたら、周りから、「なぜ席を変わってあげないの?」という目で見られました。

またある時、私がつり皮につかまり立ちしていたら、席を譲られたことがあります。しかも、初老の女性に・・・です。

断るのは逆に失礼かと思い、好意は受け取りましたが、最初のうちは、「私、妊婦に見えたのかな!?」「顔色が悪くて、病人に見えたかな!?」などと考えたりしたものです。会社の同期に、この話をしたところ、「あるよねーあれ何だろうねー!」とのことでした。

何度か譲ってもらう経験をしていくうち、「荷物が重そうに見えたからか」、「無意識にしんどそうにしていたのか」、「もしくはヒールが大変そうに見えたからか」、自分なりに簡単な理由を考えてみましたが、結局この街に暮らしまもなく5年、なぜ初老・中年の女性が若い女性に席を譲るのか、その理由はいまだに分かりません。

さて、この高架鉄道も、日本と同じように通勤通学時間になると超満員になります。

日本では列を作って順番に乗り込みますが、この国では順番などおかまいなし。
人々はどんどん割り込んで乗り込みます。最初の頃は、そのすごさに圧倒されて、乗り遅れることもありましたが、今では私もすっかりどんどん前に出るうちの1人となり、我先にと車両に乗り込んでいます。

日本ステイ中、電車に乗る際、ついつい前の人を抜かして乗り込もうとしてしまいそうになる自分が、最近恐いくらいです。

その他、常々おもしろく感じるのは、改札口からホームに上がる際、エスカレーターがあると、階段を利用する人はまずいないということです。日本ではエクササイズも兼ねて、あえて階段を利用する人も昨今では少なくないですが、こちらでは、私が階段を利用していると、「一体全体何があったの?」という不思議な目で、エスカレーター上からまじまじと見られます。

そのエスカレーターでも、日本のように片側に立ち、後ろから急いでいる人を通すということなどまずありません。そもそも“駆け込み”乗車をしている人を見たこともありません。駆け込み乗車どころか、逆に電車が来ているのが見えているのに、走ってまでそれに乗り込もうとする人もいません。

たまに、私が友人との約束時間に遅れそうになり慌てている時、前に立っている人に、通してもらおうと、真後ろに立って急いでいる素振りを見せても、まず気づいてもらえません。

最初のうちは、この国の人のおおらかすぎるところに困ったり、腹立たしく感じたりしたこともありました。でも、よく考えてみたら、それなりに成長している子どもに大人が席を譲ってあげる姿は、日本ではあまり見ないですね。子どもは厳しく躾けるのではなく、時には甘やかしてあげる。ましてや、妊婦さんでもない一般の女性に席を譲るなんて、日本では考えられないですが、この国の人たちはみんな優しいのです。

多少の遅刻を遅刻とまず思わない(笑)遅刻をされた方も、いちいち気にしない。だからみんな慌てていない。

エクササイズだと言って地味に階段を上ることなんてしない。痩せたければ、ダイエット薬を飲むか、お洒落なウェアを着てジムでのんびり走るものと考えているのです。解釈の仕方をポジティブにしてみると、なんてよい国なのだと思えます。

この気を張らなくてよい街で暮らしていると、自分も、少しだけ、前よりもおおらかになれたような気がします。

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No 02 単独行動が苦手

長距離国際線の乗務では、フライト先で1泊以上のステイ時間が設けられます。
このステイは、帰りの便に向けて体を休めるためのもので、各々のリフレッシュの方法、過ごし方があります。

日本人の私は、タイ人CAと違って、日本便しか乗務しません。したがって、私にとってのステイ先は日本になります。日本便のステイ時間は、大体1泊、ときどき2泊ステイできる時もあります。

私のステイ中の過ごし方は、関空便や名古屋便を乗務した際には、実家に帰ります。また、それぞれのフライト先にいる友人に会う、買い物に行く、美容院に行く、ホテルでのんびりする等です。同期と飛んだ際には、一緒にご飯を食べに行くこともあります。

さて、タイ人CAはどうでしょうか。
日本に到着したら、一気にテンションアップ、スイッチが入ります。
彼女(彼)らにとって日本とは、オシャレな物が多く、おいしい食べ物があふれ、最先端をいく電子機器が山のように売られており、そして平和。素晴らしい観光名所の数々。

世界中を飛び回っている彼女らにとって、日本ステイは、ご褒美のようなもの。タイ人CAの日本でのメジャーな過ごし方は、私が知る限り、買い物とお寿司を食べることです。100円ショップも大好きです。

この航空会社で働き始めてとても驚いたのは、このステイ中、タイ人CAたちが、必ず団体になって行動することです。

私たちはチームというものがなく、フライト毎にメンバーが変わるので、ほとんどのクルー同士が初顔合わせです。また、上司や先輩と一緒に出かけないといけないというようなルールはなく、いたって自由です。

私たち日本人CAは、母国ということもありますが、大体単独行動です。
実家に帰らない、友人と会う予定もないというステイも多々ありますが、そのような時でも1人でふらふら、のんびりします。フライトで心身共に疲れるので、気ままに1人で過ごしたい、休みたいのです。

タイ人CAはというと、初めてフライトで顔を合わせた者同士で、ホテルにチェックイン後、待ち合わせ時間を決めて、食事、買い物、観光、みんなで行動開始です。

先日、仲のよい日本人CA同期と一緒のフライだったので、ステイ先ホテル近くの回転寿司屋さんで食事していたら、タイ人CA総勢10名がぞろぞろと入ってきました。同じ便で乗務していて、その日のエコノミークラスを担当した全員でした。中には、元々カップルだという2人もいましたが、ほとんどが、その日初めて顔を合わせたという乗務員同士ばかり。

回転寿司屋さんのカウンターに10名が横に並び、回っているお皿をさっと掴んで食べるだけではなく、慣れた様子で、カウンター越しに、穴子やらウニやらを注文していました。

慣れていない国(日本ステイには慣れている))や、治安の悪い国で、みんなで行動するのならまだしも、この国の人たちは、どこでもいつでも、必ず誰かと行動します。単独行動が極端に苦手なのです。

10名の外国人がカウンターに座って、慣れた様子で食べている姿に、5年この国の人たちと仕事をしていても、さすがに驚きました。いくら団体行動が好きでも、まさか回転寿司屋さんに10名で来るとは・・・。

さて気を取り直して食後のお茶をしに隣のカフェへ。


しばらくすると、お寿司屋さんで会ったタイ人CA10名のご一行様もご来店です。スタバ系のカフェで、みんなが慣れた手つきで机を好きなようにくっつけ、ペラペラお喋りしたり、中には会話に入らずに雑誌を読んだりスマホを触っている人も・・・。そこでは、さすがに何グループかに分かれて談笑していましたが、少なくとも大体みんないつもグループになって行動しています。

以前、私が1人でステイ中ぶらぶらしている時に、タイ人CAにばったり会い、「食事一緒にしてあげようか、1人ですごく寂しいでしょ。気持ちわかるよ」とすごく気の毒そうに言われたことがあります。気心知れてない人と過ごすくらいなら、1人の方が気楽でいいという、私の考えは、この国の人たちにはあまり通じないようです。

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No 03 写真大好き

この国の人たちは、写真が大好きです。

結婚式でプロのカメラマンを雇うのは、日本でも一般的ですが、この国では大学の卒業式でも自分の晴れ姿を撮ってもらおうと、カメラマンを雇う人たちが少なくありません。街中では、観光客に並び一眼レフを抱えた人がたくさんいますし、飲食店でも、友だちとの会話もそっちのけで、スマホで写真撮影している姿をよく見ます。

先日友人と飲食店で食事していると、一人で女性が来店してきました。


前回のエッセイで、この国の人たちは単独行動が苦手と書きました。女性が一人で飲食店に入ってくるなんて、とても珍しかったので、ばれないようについ観察してしまいました。なんと、自分撮りのオンパレードを始めたのです。

上目づかいで、可愛い表情を作ったり、食事と一緒に撮ったり、何度も撮り直し、撮影後は何事もなかったように、無表情に戻り、もくもくと食事を食べ帰っていきました。

この国の人たちは、自分が可愛く写っている写真や恋人とのツーショット写真を、恥ずかしげもなく、携帯電話やパソコンの待ち受け画面に貼り付けています。フェイスブックでは、完璧なアングルで、至近距離の自分撮り写真を、躊躇なしにしょっちゅうアップしています。

おそらく、そのおひとり様女性もフェイスブック用に撮影していたのでしょう。

タイ人CAの友だちは、フライト度に、海外のステイ先で、自分の私服姿をモデルルのようにポーズで決めてアップ゚しています。今、この国で流行りのタピオカミルクティーを、彼氏と一緒に飲んでいるタイ人男性CAのラブラブ写真(?)も、よく見かけます。(笑)。

日本でなら、有名人のブログくらいでしか見ないであろう、決め顔の自分撮り写真や、私服スナップがじゃんじゃんフェイズブックにアップされます。それを普通の娘たちがやっているのです。この国に住むようになって、最初のころは、けっこう驚きました。今となっては、まったく違和感がないから不思議なものです。

この国の人たちは、しょっちゅう写真撮りと関わっているためか、自分自身の綺麗な撮られ方をすごくよく知っているのです。他人の写真を撮るのも上手な人が多いです。たまに機内で撮ってもらうのですが、「写真の勉強をしているの?」と聞きたくなるくらいみんな本当に上手で驚きます。

タイ人CAたちは、機内での空き時間を、飲物片手にお喋りして過ごします。同時に、写真撮影会やお披露目会も、ギャレー内でしょっちゅう開催されます。ステイ中に、観光名所で撮影した写真を見せ合うのです。また仲良しCA同士でのフライトとなると、暇さえあればギャレーで、一緒に撮りまくっています。始めて一緒に乗務する日本人CAの私も、その仲良し組に誘われて、つき合いで一緒に撮るはめになります。その写真に、勝手に、ウサギの耳をつけるなどの編集して、知らぬ間にフェイスブックにアップされていたなんてこともあります。

自分が、モデル並みに可愛いわけでなくても、フェイスブックにどんどん決め顔をアップしても、もちろん恥ずかしなんて思わないのです。町中で、自分撮りをしているところを、通りがかりの人たちが見ていても気にしないようです。

結局は、自分が可愛いということなのか、という結論にも至りますが、ナルシストというのは万国共通。それを隠そうともしない、この国のそういうところが、楽に感じられて、私は好きです。

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No 04 アメリカ旅行

2週間程、長めの休みを取り、友人と自由と広大な国アメリカに行ってきました。

私たちが訪れた西海岸カリフォルニアの街は、とにかく道が広く、沿道には信じられないほど背の高いヤシの木がずらりと並んでいます。コーヒーショップでは、レギュラーサイズでも、日本でいうExtra Large並みの料理の数々。女性たちのファッションはかなりカジュアルで、通りすぎる人々は大声でのびのびとしたジェスチャーで話をしています。

信号待ちをしていたら、おじさんが車の窓を全開にして、大音量でビートルズの曲を流し、タンバリンを振り回して、ノリノリで歌いながら走り去って行きました。

カリフォルニアは、とにかく広い土地のため、自家用車での移動が主流で、どの街も、公共交通機関があまり発展していません。しかし、私も、友人も、車の運転が苦手だったため、レンタカーはせず、毎日すごい距離を徒歩で移動し、限界を感じると、その不便な公共交通機関である電車とバスを利用しました。

中でもバスは、地方に行くと、1時間に1本来るか来ないかで、時刻表はあってないようなものです。ここは、日本や私が住んでいる国とは違って、見知らぬ人でも気軽に挨拶し合う国ですので、バスを待っている間に、バス待ち同士で、世間話しをすることも日常茶飯事。

私たちも、このバス待ち時間のおかげで、地元の人たちと世間話しをする機会が何度かありました。中でも、特に記憶に残っているのが、20代半ばの地元男性ジミーです。

車移動がメインのこの街の住人でありながら、車を持たず公共交通機関を利用しており、求職中でなかなか仕事が見つからないと、本人が言っていたことから、あまり裕福な人ではないようでした。

ジミーは自称「愛日家」で、お気に入りの日本食は牛丼とのこと。

日本人がお風呂で湯船に浸かることに疑問があるらしく、「日本人はあんなに小さな湯船に体を丸めて入って、どうやってリラックスできるのか?」と不思議そうにしていました。ちなみに、彼は身長190 cmくらいで、なかなか肉付きのいいどっしりとした体型でした(笑)。そんな彼にとっては、一般家庭の湯船は小さく写るに違いないでしょうね。

私たちは、彼に簡単な日本語を教えたり、自分たちがエアライン業界で働いていること、今回、この国に初めて来たこと、この国の広大さ(特に炭酸飲料の大きさ)に驚いたことなどで、会話に花が咲いていました。

そうすると彼から、「この街にCoolなJapanese Bar Restaurantがあるから、帰国前に一度絶対に行くべき!」と、お店を強く勧められました。

「海外旅行に来てまで日本料理かぁ」とも思いましたが、「お店の雰囲気が抜群で、料理も美味しい。地元の人たちに大人気!!」と、とにかく相当のおススメっぷりです。お店の場所も、中心街にあり、行きやすい場所でした。その日、観光後の夕食は決まっていませんでしたので、試しに行ってみようかと、友人と行くことにしました。

さて、バス停で待つこと50分。ジミーとの会話も落ち着き、炎天下でそろそろ疲れてきていた時、やっとバスが来ました。

貴重な観光時間がバス待ちのために削られてしまいました。だけど、地元男性と話ができ、おススメのお店も教えてもらえたし、よい思い出になったかなと、友人も私も満足してバスに乗り込みました。もちろんジミーも後に続き乗ってきました。と、その時、「肩に何かついているよ」という程度の軽いノリで、ジミーは、「もしよければ僕のバス代も一緒に払ってくれない?」と言ってきました。

≪私たちがバス停に着いた時には、すでにそこに座ってバスを待っていたはずなのに、元々バス代を持っていなかった?≫
≪いや、バス代を持ってはいるけど、人の良さそうな観光客からあわよくばバス代をいただこうというのか?≫
≪いくら失業中と本人が言っても、それなりにきちんとした身なりをしているのに、友達のように楽しく会話をした私たちに頼むその神経は一体!?≫

多くの場合、こういう時は、「話せて楽しかったよ。またね」で爽やかに終わるものですよね?私も友人も、一瞬あっけにとられましたが、優しい友人は、結局、彼のバス代を支払ってあげました。「なんか悪い人じゃなさそうだったし・・・」とのこと。確かに年下だし、憎めないタイプではあったけど・・・。

「次に会った時に返すよ。ありがとう」
と、あつい握手と感謝の言葉をあとにして、自分の目的地に到着したら、さっさと降りていきました。恐るべきジミー。ちなみに、彼は、この後、教会へ行くと言っていました。

さあ、気をとり直しです。日中楽しんだ観光も落ち着きました。夕食の候補に入れていたジミーおススメのお洒落な日本食バーレストランとは一体どんなものか。教えてくれた通りの道順で向かいました。その場所にあったお店は、なんと焼肉屋「牛角」でした!

私も日本で食べに行ったことはありますが、彼の言う“CoolなJapanese Bar Restaurant”というイメージとは少し違いますよね?日本の飲食店が、世界に進出していることは日本人の私にとっても誇りで嬉しいことながらも、「牛角」と書かれたその看板を見た時、なぜか、「さすがジミーだわ!」という言葉が口から出ました。笑

しかし、よくお店の中を覗いてみると、天井が高くて、落ち着いた照明で、Coolな雰囲気です!

焼き肉用の網付のテーブル席ゾーンと、バーやクラブにあるような背の高い丸テーブルのカクテル用ゾーンとに分けられた内装です。煙をもくもくさせてお肉を焼く、とうよりかは、丸テーブルゾーンでスツール椅子に腰を下ろして、お酒を飲んで語り合っているお洒落な地元人で混みあっています。外にあったメニューをチェックしてみると、価格設定もけっこう高めです。

結局、私たちは外から眺めるだけにしましたが、ジミーの熱く語っていた、そのクールな日本食バーレストランという意味は、確かに、合ってはいました。

日本の大定番であるお店が、この地域の特色や需要に合わせて形を変えて展開することもあるのだなと、興味深かかったです。

そして、個性の強かったジミーとの一期一会の出会い。

これぞ、観光地巡りを超えた、旅のよいところです。
気のよい友人は、バス代を返してもらえなさそうですが・・・。笑

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No 05 この国ならではのマナー

海外をベースに、CAを始めて5年になります。

この国の異文化に、驚き、時に怒り、たまには感動したり・・・。穏やかな気持ちで、1日を過ごせない日々は、いまだに多いです。それでも、自分はタイに住まわせてもらっている、タイの人たちにとっては外国人なのだと、当たり前だけど、消えてしまいがちな初心を忘れないようにしているつもりです。

中でも、特に気をつけていることは、この国のマナーを知り、小さなことでもそれに従うことです。

タイの航空会社にも、日本人乗務員も何名かは在籍しています。しかし、直属の上司や一緒に働くほとんどのCAはこの国の人たちです。さらに機内となると、世界各国からのお客様に接します。

日本人のマナーとは違ったそれを目の当たりにすることもよくあります。「マナーって、本当、それぞれ国によって違うものだなぁ」と実感します。

海外で有名なマナーといえば、例えば、欧米では、「麺をすすらない」「鼻をすすらない」「大っぴらにくしゃみをしない」等々ですね。日本では何でしょうか? 「列は並ぶ」「電車の中では通話をしない」「箸渡ししない」など、いろいろと思いつきますよね。

タイでは、日本や欧米とは一味違った独特のマナーが数々あります。

その中でも、この国に来て最初に覚えた、この国ならではの、ガイドブックにものっていないようなマイナー(?)なマナー。それは、「お水やジュース類等ソフトドリンクはストローを使って飲む」ということです。

入社してすぐの、訓練中のことでした。

まだ互いに、この国の風習に慣れていない同期のみんなと、ホテルでの共同生活です。CA独特のモックアップ訓練に入るまで、座学が約一か月間続きます。CAとして飛び立てる実感がなかなか湧きません。

初めて見聞きする専門用語の英単語を調べたり、この国独特の訛りのある英語を聞き取るのに必死です。訓練中「How? What? Why?」で始まる質問をしても、「Yes」としか返事してくれない教官もいたくらいです。身体はそれほど動かしていないのに精神的にへとへと、体力消耗状態です。

そんな座学訓練中の気晴らしは、なんといっても授業の合間に設けてもらえる約15分の休憩時間でし。乾燥した教室で、1日中過ごす私たちは、常に喉がカラカラです。休憩に入ったとたん、みんな一斉に席を立ち、訓練センターにあるミニスーパーに飲み物を買いに走ります。休憩中の教室内では、それぞれ仲のよい者同士が輪になって、その飲み物片手に、束の間の談話がスタートします。

さすがに、「がははー!」と大声で笑ったりはしませんでしたが、休憩時間は休憩時間。リラックス気分で会話しながら、500mlサイズの水を飲んでいると、部屋の隅っこで、休憩時間が終わるのを待っていた教官の目が光りました。

そして、まるでおぞましいものを見るような表情で、「その飲み方はすごく下品です。飲み物を飲む時は、必ずストローを使うように・・・」と言いました。

私たち日本人は、500ml程度の大きさのペットボトルや350mlの飲料缶は直接口につけて、ぐいっと口飲みするのが普通ですよね?


ところが、この国の人たちは、飲み物に、直接口につけて飲むことは、はしたないとしつけられるようです。どんな飲み物でも、アルコール類とかコーヒー等の暖かい飲み物以外は、とにかくストローで飲むようにと注意されました。

たまにミニスーパーでストローをもらい忘れてしまった時など、教官の目を盗んでこっそり口飲みして、見つかったら最後、とにかく厳しく注意されました。水分補給は毎日、毎時間必ずすることなので、教官の目にもとまりやすかったのだと思います。

訓練中は、「世界に誇るこの航空会社のCAたるもの、あなたたちは、世間で女性のお手本といわれる存在です。制服を着ていないプライベートの時でも、立ち振る舞いには十分気をつけなさい」と、毎日のように教官から言われました。

いや、もちろんすべてのCAがそんな完璧なはずはないですよ。

ちなみに、CAのあるべき姿を熱弁していたその教官を、先日、会社で訓練以来数年ぶりに偶然見かけました。その時の彼女は、だらんと腰を曲げ、足を組み、タバコを吸っていました(笑)

テーマから少しはずれますが、他にしつこく言われたのは、

「パンはかぶりつかず小さくちぎって食べる」
「携帯電話は歩きながら話さない」
「食事をする際にはナプキンか自分のハンカチを膝の上にのせる」
「化粧室を利用する際、手を洗った後は洗面台を拭く」
「ヒップアップの運動は常にする」
「大股で歩かない」(笑)

等々、これらは日本で実践しても、上品に映ってよいかもしれませんね。

さて、機内でも、コップや缶に直接口をつけて飲まないというマナーは、タイ人のお客様からも窺い知ることができます。 離陸すると、まずドリンクカートを押しながら、お一人ずつお客様に伺うドリンクサービスを行います。

その後、お客様の飲み終わったコップを回収するためキャビンを回ると、ほとんどのタイ人旅客が、2割から3割程度中身を残したままコップを返却します。この国では、「いただいた食べ物を少し残すのが礼儀」だと言われているので、そのことも関係しているとは思います。

ただ、もともと250mlも入れれば溢れるような一般的なサイズの紙コップ1杯分も、飲みきらずに返却するのですから、後々喉が渇いて当たり前です。とにかくキャビン(客室)を歩く度に、タイ旅客から、何度も何度も飲み物を頼まれます。

この現象は、私たち日本人乗務員の中でも、「なんでだろうね?どうせ頼むなら、とりあえず残さず全部飲みきったらいいのに・・・」と不可解でした。対照的に、日本人旅客は、ほとんどの方が頼まれた飲み物はすべて飲み干してらっしゃいます。そして、何回もお飲み物をオーダーされる方はあまりいらっしゃらないです。

タイ人CAにこの話をしてみると、「ストローを使わずに直接コップに口をつけて飲むのは品がよくないでしょ。機内ではストローの用意はないでしょ。その飲み物を飲みきるとしたら、コップをぐいっと上に向けないと飲み切れない。それに抵抗がある人が多い。だから途中までは飲むけど、そのあとは残すんじゃないかな」とのこと。

確かに。自国の習慣として、一度にぐいっとすべての量は飲みたくない。その分、結局、飲み足りなくなるから、何度でも飲み物を頼むのですね。この風習、口飲みをするのははしたないと言われている国ならではだと、納得しました。


私としては、飲食物を残すほうが、マナー違反ではないのかと思うのですが、その国それぞれ、人それぞれといったものでしょうか。

このマナーは、守っても守らなくても、特に誰かに迷惑をかけるというものではありません。けれど、私はこの国に住まわせてもらっている外国人であり、一応立ち振る舞いには十分気をつけるべき職業(のはず)に就いています。

訓練中に厳しく注意されて以来、ペットボトルや缶の飲み物を飲む時は、ストローを使うようにしており、完全にこの国に馴染んでいるつもりです。

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No 06 この国の食文化

私が、ここ最近、気をつけているのは食生活です。


というのも、この国に暮らし、CAの仕事を始めて5年、これからも楽しく働き続けていきたいなと日々思っているからです。しかし職場は空の上、不規則な時間帯の生活が当たり前、そして尋常でない機内の乾燥に悩まされるこの仕事は、とにかく体力勝負です。

例えば、風邪ひとつひいただけでも、フライトができなくなります。鼻風邪の場合、航空性中耳炎になる恐れがあるとのことで、ドクターストップがかかってしまうのです。

私たちは、フライト毎に乗務手当を受け取っています。それで生活していると言ってもいいほど、給料の全体で大きい割合を占めている存在です。少し体調を崩しフライトを休むことで、その貴重な乗務手当はもちろんなし。

また、自分が病気になった際、代わりのCAを探してもらう必要があり、会社にも迷惑をかけることになります。代わりに飛んでくれるCAも、スタンバイduty中でしたらお互い様と割り切れるでしょう。しかし、どうしても人が足りない場合、オフ中のCAが飛ぶこともあるのです。

怪我や急な病気は、誰にでも起こりうることで仕方がありません。でも少なくとも、風邪をひきにくい体質にしたり、健康でいたりするためにすべきことは?日本でも最近の女性誌やTVでよく見ますが、


「体によい食事」「質のよい睡眠」「エクササイズ」「ストレスを溜め込まない」等々、
様々な方法がありますよね。

朝日と共に起きて、夜は自分のベッドで寝る。オフの日に、それができるだけで幸せと感じられるくらい、この仕事では規則正しい生活はまず難しいです。というわけで、私は、オフの日は自炊をしたり、果物野菜類を多めに食べたりと、食事に気を付けるようにしているんです。

しかしこの国の、タイ人CAも含め、国民全体はというと、けなげに(?)、健康のため食事を意識している私なんて、一蹴されるような食生活を送っている人がほとんどです。

この国の人たちは、ほとんど自炊をしません。屋台やスーパーのお惣菜を買った方が、安くて早いからだそうです。

タイ人と付き合っている、日本人の友人から聞いた話です。彼女がある日、野菜炒めを作った時のこと、ただ野菜を切って、味付けは、塩コショウ・醤油で適当すると、本国人の彼から、

「料理ができるなんて、すごい!!」

と賞賛を浴びたらしいのです。

そもそもこの国のアパートや家では、台所がちゃんと備え付けられていません。ホテル住まいだった訓練が終わり、今借りているアパートに落ち着くまで、いくつか物件を見て回りました。

ワンルームや2Kの広さのアパートだと、まずキッチンが狭いところがほとんどです。よほどの高級マンションでしたら、立派なキッチンがついています。しかし、ほとんどの一般家庭の台所は充実していません。

日本でも、学生時代の一人暮らしは、1Kの台所はあってないようなものですよね。まな板を置くスペースもなければ、コンロ2つで精一杯(少なくとも私の時代は)。あのような感じでしょうか。

もしくは、部屋の中に台所関連のスペースは一切なく、庭やバルコニーにコンロが置かれているようなアパート・一軒家も多いのです。

この国の料理はハーブやニンニクをふんだんに使います。料理をした時、凄まじい匂いが残るので、外に備え付けると聞いたことがあります。日本でも、焼き魚をしたらすごく匂いが残りますが、それと比にはならないほどですからね。

では、この国の多くの人が、外で買う普段の食事とはどんなものでしょうか。


常夏のこの国の料理は、とても味が濃いです。辛い、甘い、塩辛い、酸っぱいのオンパレードです。屋台で実際に作っているところを見ていると、半端じゃない量の油、砂糖、塩、ラード、味の素類の調味料を使っています。

熱い太陽の下で、数時間過ごすと、特に動き回らなくても体力が消耗するのを実感します。確かに、和食のようなさっぱりしたものより、ハーブのたっぷり効いた味の濃いこの国の料理を食べたくなります。けれど、それをこの国の人たちのように毎日食べるとなると・・・。健康へはかなり悪影響では?と、考えずにはいられません。

機内でも、タイ人のお客様は、健康志向とかけ離れている様子です。


まず、離陸後、ドリンクサービスからスタートします。日本人のお客様は、ウーロン茶、フルーツジュース、アルコール類…とオーダーされる飲物は色々です。この国のお客様は、すごい確率で皆さん炭酸系をオーダーされます。


老若男女、コーラ、スプライトが基本。お子さんに炭酸系を頼まれる日本人のお客様は、あまりいらっしゃいません。私も小さい頃、コーラ類は親から一切飲ませてもらえませんでした。入社して最初のうちは、タイ人の親御さんが、お子様に炭酸系を与えている姿を見ても、

「飛行機に乗ることは非日常。たまの楽しみとして飲ませているんだろうな」

なんて思っていたのですが、そんなことないのです。当たり前のように飲ませてらっしゃる姿を、フライト毎にあちこちの座席で見られます。

ドリンクサービスの後は、機内食をお配りします。通常はタイ料理と、和食の2チョイスが用意されています。


タイ料理の方は、実際よりも大分柔らかめの味に仕上げられていますが、それでも、わりと味が濃かったり、塩辛かったりする場合もあります。しかし、多くのタイ人のお客様は、コショウ、チリソースを山盛りかけます。日本風のお粥の時なんて、醤油か乾燥チリをたっぷりかけて食べてらっしゃいます。

さて飛行中、 気分のすぐれないお客様が出ることもしばしば


腹痛や吐き気を訴える方が多いです。お薬以外で、何かお飲み物をお出しするとしたら、日本人としては、白湯、お水、温かい日本茶を思いつきますよね。


ところがタイ人CAは大体、スプライトをお出しします。今まで、体調を悪くした日本人旅客で、スプライトを口にした人は、5年飛んでいても、1、2度しかありませんが・・・。(笑)

しかし、食事に気をつけていると言った私ですが、何を隠そう、この国で働きだして、スプライトが大好きになってしまったのです。胃がむかむかするなぁという時など、スプライトを飲む時もあります。完全に影響を受けていますね。

では、いくつになっても、元気にフライトをしているタイ人CAの先輩たちは、どうやって健康を保っているのか?


「エクササイズ」「深く考えすぎない」「サプリメントを飲む」と言う人が多いです。

色々と考えすぎて食事をとるよりも、食べたい時に食べたい物を食べる。結局はその方が幸せな気分になれて、ストレスもたまらず健康でいられるのでしょうか?

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No 07 至れり尽くせりサービス

「オフの日は、何をしているの?」

フライト中、一息ついている際、乗務員同士の会話によく出てくる内容です。タイCAは、

「家族や恋人と一緒に過ごす」
「ジムに行ってエクササイズする」
「買い物に出かける」

と言う人が多いのです。

私は、一番「食」に意識が向きます。食を充実させることが、一番の気分転換になるからです。本格的なものは作れませんが、自分なりに時間をかけて料理をします。また、友人と外食を楽しむこともよくあります。とにかく食べることが大好きなのです。

そんな私が暮らすここバンコクは、食の宝庫です。


まず、どこの道路沿いにも、数えきれないほどの屋台が並んでいます。日本円に換算して300円もあれば、当たり外れなく美味しい現地料理が、お腹いっぱい食べられます。特別な日に行きたいようなお洒落なレストランも、競い合うように至る所にあります。

また、大型スーパーも、そこら中に作られています。そこでは無農薬野菜や和食の材料を手に入れることができるので、自炊面でもかなり助けられています。そういうわけで、外食・自炊共に、不自由したことがありません。食べること、料理することが大好きな私にとって、この街でのオフの日々はとても充実しています。

さらにこの街は、この贅沢な食環境に加え、飲食店でのサービスが素晴らしいのです。例えば、

びんビールやボトルワインをオーダーした時、日本では、自分たちでお酌しあいますよね。それがマナーというか、相手に対しての気づかいと言えると思います。コミュニケーションの一種でもあるのではないでしょうか。また、「手酌すると、出世できない」と聞くほどですよね。これは日本らしい素敵な文化だと思います。

それに対し、こちらの国では、お店の人が常に見てくれていて、グラスの中がなくなる前に注ぎにきてくれます。至れり尽くせりのサービスを提供してくれるので、客である私たちは食事と会話に集中できます。こちらのこのサービスもまた、素晴らしいですよね。

といっても、もちろん誰もが笑顔でサービスしてくれるわけではありません。むしろ無表情でぶっきらぼうなスタッフも、少なくありません。しかし、そんな不愛想に見える人も、実は、程よい距離感で客の様子を観察し、絶妙なタイミング゙でサービスしてくれることがよくあるのです。

タイの飲食店でのサービスのよさは、チップ゚制であることが関係しているのかもしれません。けれどそれだけでなく、この国の人たちの「お世話好き」という性質が、サービスに、にじみ出ているような気がします。チップ目的ではなく、根っからのもてなしの心で、お世話してくれているのが伝わってくるからです。

私もお客様にサービスを提供する立場です。


幸運にも、ホスピタリティに溢れたタイ人CAに囲まれ仕事をしています。そんな私ですが、たまに「うっかり」な事を起こしてしまいます。特に、日本でのステイ中、「あれ、これはどちらの国の習慣だったかな?」と戸惑うことがたまにあるのです。

例えば、年上の日本人の知り合いと外食した時です。


知人のお酒のグラスが、ほとんど空になっているのにほったらかし!なんてこと、1度や2度ではありません。この国の飲食店でのサービスに馴染んでいるあまり、お店の人がお世話をしてくれるものと思い込み、ついつい会話と食事に集中してしまうのです。

CAは、「オフでも気がきいて当たり前」と思われているはず。それなのに、このぼんやりしている様子に、日本での知人たちは内心驚いていることでしょう。(笑)

CAは、色々な国を飛び回ります。


私の場合は、本国と日本の往復が主ですが、それでも機内のお客様は、一度に、様々な国籍の人々が集まっています。「気が利く」だけでなく、「適応能力」も必要だなと痛感しています。

さて、この国での大好きなオフの日の話に戻ります。

友人とイタリアンレストランに、行った時のことです。隣の席には、10名ほどの日本人客が座っていました。現地採用の日本人や日系企業の駐在員、観光客など、多くの日本人が、この街に滞在しています。そのため、街中のちょっとした飲食店に入ると、自分以外に最低1組くらいは、日本人の姿を見ます。

さて、そのお隣のお客様たち。


スーツ姿で、観光客とは違う雰囲気を醸し出しています。どうやら、日系企業の方たちの様子です。皆さんお酒が進んでらっしゃいます。


その中で、大変そうに見えたのが、そのグループ内の若手の人たちです。上司や先輩にお酒を注ぐため、ワインボトルを手に持ち、何度も席を立ってテーブルのまわりを回っていました。


もちろん、テーブル担当のウェイトレスがいます。客が何もしなくても、彼女がお酒を注いでくれます。先ほど書いたように、それがこの国での一般的なサービス方法です。
しかし、その彼女を押しのける勢いで、あくまで日本風を貫いていました。

「この方たちが日本に帰国しても、私のように相手のグラスが空になっても気づかないということはないのだろうな」

と、隣からこっそり窺っていました。

そして、その時の担当ウェイトレスはというと、

「お客様ご自身でやってくださるのなら、お好きにどうぞ、どうぞ」

という感じで、ニコニコと見守っていました。彼女にとって、もちろん日本人の私たちが外国人。自国で、海外の習慣をあからさまに出されているということになりますよね。それでも、全く気にしていないという様子です。この彼女のように、細かいことには気にせずに構えられるおおらかさに憧れます。

入社してこの国に来た頃は気づけなかった、日本とは違うこの国の人たちのサービス精神

しかし今は、この国の人たちならではの優しさ、もてなしの心

それに触れる度、感動しています。

まず、お客様に目的地まで安心して過ごしていただけるよう努めるのがCAの仕事ですよね。私自身、オフの日には、至れり尽くせりのサービスを受け、癒されます。自分も、より非日常的な空間である機内で、そういう風にお客様のお世話を、常にできるようになりたいと思う、今日この頃です。

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No 08 子供にやさしい

7か月の赤ん坊がいる友人から、質問をされました。

 「飛行機に、赤ちゃん乗せられる?」

子どもを連れて国内旅行の計画を立てているのだそうです。他業種で働く彼女は、普段なかなか飛行機を利用することがないようで、赤ちゃんが飛行機に乗れるのか不安な様子でした。

実際、もちろん赤ん坊は飛行機に乗れます。ほぼ毎便、乳幼児を連れたお客様が乗ってらっしゃいます。しかし、飛行機は一度飛び立ってしまうと、目的地に着くまで密室状態、窓側の席だと景色は素晴らしいですが、化粧室へ行くにも身動き一つ取りづらくなりますよね。

夜中の便になると、周りのお客様も寝てらっしゃいます。


今まで機内で、何度か保護者の方とお話する機会がありましたが、やはりお子さんが静かに眠ってくれることを祈るばかりだとおっしゃっていました。飛行機に乳幼児を連れて乗ることは、お子様ご自身ももちろんですが、親御さんにも大きなストレスになるそうです。

私の乗務するバンコクー日本間の機内のお客様は、日本人旅客を筆頭に、欧米系、アラブ系、東南アジア系等、国籍は様々。最近では、タイ人のお客様も増えてきました。

飛行時間は約6時間、 それぞれの国の方々が、赤ん坊や就学前の小さなお子様を連れて搭乗されてきます。

基本的に、日本の親御さんは、周りの方に迷惑をかけないよう、お子様を静かにさせようとしている方が多いように見受けられます。ギャレーの空いているスペースに立ち、泣いている赤ん坊をあやしている方はたまにいらっしゃいます。

しかし、大体、それなりに長い飛行時間にも関わらず、昼間の便でも、お手洗いにお子様を連れていく以外、ウロウロとされているのをあまり見ません。

それに対し、タイの親御さんたちは、お子さんが機内を歩き回っていても、放ったらかしにするほどおおらかな方もいます。先日の便では、タイ人の2歳の男の子が、一人でギャレーにテクテクと遊びに来ました。

ギャレーから近い席だったこともありますが、これにはさすがに驚きました!

また、子どもがどれだけ泣きわめこうと、ほとんど叱りません。この国の親御さんたちが、静かにさせようとしている場面に出くわすと、珍しいものを見たなというくらいです。

実は、「元々、子どもは泣きわめくもの、わがままなもの、好きなようにさせてあげたらいい」 という観念が、この国にはあるようなのです。確かに、機内に限らず、街中や飲食店でも、子どもを叱っている大人を今までほとんど見たことがありません。

自分が怒られず育てられてきているので、自分の子どもにも怒る習慣がないらしいのです。

機内でどれだけ子どもが騒がしくしていても、周囲に座っているタイ人のお客様で、迷惑そうな顔をされる方もなかなかいません。

「子どもが騒ぐのはしょうがない。それは、別に親が注意するものでもないし・・・」

といった感じです。第一回のエッセイで、この国の人たちは電車内で子どもに席を譲ると書きましたが、本当に、子どもに対してとても寛容だなと思います。

その反面、家では、親に叩かれて育ってきたというタイ人CAの話も聞いたことがあります。手をあげることは一般的だとか、普段のこの国の親御さんたちの様子から見て、信じがたい話です。

「でも、あなたたちの国の人たちは、機内や公の場では子どもを全く怒らないよね?」

と聞くと

「周りの目をすごく気にするから、人前では怒らない親が多いのよ」

との答えが!

それを聞いて、「周りの目を気にするなら、逆に子どもを静かにさせるものなのでは?」とも思います。しかし、それはあくまで日本人感覚なのでしょうか。それにしても、電車の中では子どもに席を譲ってあげたり、子どもに、コーラなど炭酸系の飲物をどんどん与えたりしています。日本ではなかなか見ないおおらかさです。

家庭内で手をあげるとしても、基本的には子どもに優しい(甘い?)親御さんが多いからか、この国には、とても仲のよい親子が多いです。宗教的視点から見て、

「家族を大事にする」

ということもあってか、日本に比べると親子関係がとても濃いように感じます。

ある時、タイ人CAから、

「日本人のお客様で、親子連れってほとんど見ないわ。あなたたちの国の人たちは、親子で一緒に旅行しないの?」

との質問されたことがあります。確かに、乗務していて、日本の親子連れの旅行者を見るのは少ないことに気づきました。

それは、この国に旅行するのは、友だち同士やカップルで訪れた方が楽しめる。娯楽が多い場所だからということも大いに関係しているとは思います。それでも、日本人は、子どもがそこそこ大きくなると、家族で旅行、ましてや、海外旅行に行くことは確かにあまりない気がします。

それに対し、この国の人たちは、最近、国が裕福になってきたことも関係してか、家族連れの旅客が目立ちます。10代半ばの男の子が、父親の肩にべったりと寄り添って座っている姿を見ても、違和感がありません。

また、そのくらいの年頃の少年少女たちが、母親と手をつないでいるのを見ることもわりとあります。親と一緒に行動するのが恥ずかしい、嫌だという思春期特有のつんけんした態度もあまり見ません。

手をあげられることはたまにあるにしても、子どもの頃に、優しく甘く育ててこられたことが関係しているのではないでしょうか。

結局、私のその友人は、今回は赤ちゃんを乗せて飛行機に乗ることはやめたそうです。
「子どもが泣いてしまったら周りに悪いし・・・」と言っていました。

もしこの国の人たちに囲まれてその友人一家が暮らしていたら、違った答えを出していたでしょう。 皆が、子どもに、特におおらかに接してくれるので、安心して飛行機に乗せられただろうなぁと思います。

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No 09 自分の国を知る

タイ人CAは世界中を飛び回っています。


その彼らにとって、日本と言えば、治安がよく、食べ物は美味しい、気軽に訪れることができる多くの観光名所・・・。


街中には、品質がよい品々が溢れ、最先端の電子機器類も揃う。要するに、日本便はご褒美フライトになります。

そんな日本でのステイ中、タイ人CAたちは、日ごろのストレスを発散するかのように、買い物に精を出しています。


ステイ中に、買い物を存分に楽しんだ後の、日本からバンコクへの折り返し便では、みんな充実した表情で乗務しています(笑)。そして機内での空き時間は、買ってきた戦利品を披露しあうこともしばしばあり、

「そんな新製品が出たの」

と、日本人の私も知らないような品物を、彼らは見つけてきます。

次に日本へ飛んだ時、私自身も買ってみようかなと、参考になるような日本のコスメや電子機器類を、タイ人CAから逆にたくさん教えてもらっています。(笑)

「日本製は、とにかく、質がよくて信頼できる。製品だけじゃなくて、人も礼儀正しくて優しい。日本が大好き」

世界中を飛び回り、色々な国を見ている本国人CAにそう言ってもらえると、とても嬉しく感じます。興味を持ってくれている分、質問されることもよくあります。

「抹茶と緑茶の違いは何?」
「今の旬の野菜は?果物は?」
「今日の日本の祝日は、何のためなの?」
「竹と日本人はどういう関係があるの?」
(これは成田空港にある、竹のオブジェを見て聞かれた)
「うま味って何?どうやって作るの?」
「大きな魚の旗があったけど、あれはどういう意味?」
(鯉のぼりのこと) 

等々

自分でも知っているようで、いざ聞かれると、細かい説明にまごついてしまうようなものもあります。今まで、タイ人CAを含め、海外の人に日本のことを聞かれ、答えらず恥ずかしい思いをしたことも、何度かあります。

自分の国の基本的なことさえも、ちゃんとわかっていないことに情けなく感じました。そんな経験から、最近は、日本のことを改めて勉強するように心がけています。そのおかげで、少しずつではありますが、以前よりも知識が増えてきたと思います。

これも、外国人と一緒に働いている環境に置かれているからこそ、得られるプラス面です。私の場合、海外の人たちから日本の良さを教えてもらうことの方が多いかもしれません。

機内での空き時間、説明書を手に持ったタイ人CAに、

「これ、訳してもらえないかな?」

と頼まれることもよくあります。白髪染めやエステグッズ、サプリメント、インスタント食品等々・・・。日本からの帰り便で、空き時間での出来事です。タイ人CAの一人が、どこかのマルチメディア館で買ってきた最先端の電子機器を披露していました。私も初めて見たものだったので、

「何だろう」

と、思って一緒に見ていました。すると、買ってきた本人が、

「This is your homework.(はい、これあなたの宿題ね)」

と言って、新聞紙くらいの大きさの何ページもある膨大な量の説明書を、手渡してきました。機械音痴の私にとっては、見るからに面倒くさそうな説明書です。

プライベートで遊んでいる時など、時間にゆとりがある時ならまだいいです。しかし、場所は機内、なぜか、こちらから頼んでもいない「宿題」を渡されて、仕事そっちのけで、長い説明書を読まされる私。機械音痴なりにも必死に読みました。

しかし、普段よく聞かれるサプリメントやエステグッズなどのシンプルなものとは違い、なかなかはっきりと分かりません。タイ人CAたちは、

「書かれたことを読むだけで、どれだけ時間かけているの?ただ訳せばいいだけでしょ」

とでも言いたげな様子でこちらを見ています。ついには、

「Are you really Japanese?(君、本当に日本人?)」

とあきれた様子で聞かれました。さすがに、その態度と口調に腹が立った私は、

「私はこの機械は初めて見たの。私は電子機器に強くないし、そもそも電器屋さんじゃない!」

と強い口調で言い返してしまい、ギャレー全体に気まずい空気が流れてしまいました。

日本人CAの私は、この国では外国人、今まで、よくタイ人CAに助けられてきました。
それに比べると、空き時間にちょっとした説明書を訳してあげるなんて、簡単なこと。コミュニケーションのきっかけにもなるし、私はいつも快く引き受けているつもりでした。 しかし、この時ばかりは、あの態度と言い方に、さすがに、腹が立ちました。

でも、そういう私も、人のことは言えません。


先日、街中を歩いていると、新築でよさそうなコンドミニアムのポスターを発見しました。とても興味があったのですが、詳しい内容がタイ語で書かれてあり理解できません。結局、その写真を撮って、次のフライトで、タイ人CAにそれを見せて訳してもらいました。他にも、たまに本国の文化のことを質問して、それにタイ人CAが答えられないと、

“自分の国のことなのに、知らないんだ?”

と密かに思ってしまうこともあります。

結局、お互い様なんだなと思います。今後も、日本語を訳すように頼まれた時や、日本のことを質問された時、できる限りの範囲で快く答えていくつもりです。

海外の人たちと仕事するということは、異文化体験だけでなく、自国のことを改めて見るよいきっかけになっているなと最近感じています。日本文化のこと、海外の人たちにもっと教えてあげられるように、最低限の勉強は続けていきたいなと思っています。

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No 10 計画どおりにいかない

私は学生の頃から、手帳をいつも持ち歩いています。

読んだ本の感想や食べた物の記録、仕事や友人との予定等を書き込んでいます。それから、ほぼ毎日していることと言えば、簡単なTo Do List作成です。要するに、何でもメモするのがクセなのです。

買い物リストは必ずと言っていいほど準備しますし、オフの日にしたいこともメモします。例えば、「1ネイル 2.銀行(待っている間に△△と■■をする) 3.ヨガ 4.○○デパートでギフト選び」というように、どの順番に何の用事を済ませば一番効率よく動けるか、前もってリストにします。

些細なことですが、計画通りに実行できた項目を消していく時、とても気分もすっきりします。

ところが、この国に来てから、計画通りに物事を運ぶことの難しさを実感するようになりました。

フライト時に着用する制服は、汗をかきますし、シワもすぐついてしまいます。常に清潔に保っておくため、ジャケットを除き、一度着た制服は、毎回クリーニングに出すようにしています。ありがたいことに、会社がその費用を負担してくれます。ただし、空港の隣に設置されている指定クリーニング店を利用することが条件です。自腹を切るなら別ですが、自宅付近の店に出しに行くということはできません。そうなので、フライト勤務で空港へ行く際、前の乗務で着た制服を一緒に持っていき、クリーニングに出す、という形をとっています。

以前、指定クリーニング店の営業時間にぎりぎり間に合わなかったことがありました。乗務前のため、その出しそびれた制服をまた家に持って帰る時間もなく、結局、フライトに持っていくはめになったのです。不要な制服の荷物が増え、面倒な思いをしました。これは営業時間を勘違いしていた自分のせいだったので仕方がないことです。しかしその後も、様々な理由でクリーニングを出せないことがちょくちょくありました。開店時間内に行ったはずなのに、店はすでに閉まっていました。予告もなく、突然閉店時間を1時間早めたとのことだったのです。先日なんて、入口のドアノブに、「従業員只今休憩中」というプラカードがぶら下がり、鍵がかかっていました。

こういうことが立て続けに起こるため、今では、さすがに私も対処方法を身につけました。このような場合、強い味方になるのは会社のコインロッカーです。入社当時の頃と違い、「クリーニングに出せたらラッキー。出せなければ会社のロッカーに預けたらそれでいいや」くらいの考えに変わったので、とても気が楽になりました。笑

他にも、計画通りにいかないことはしょっちゅうあります。

私は、オフの日に料理することが楽しみの一つです。前日から、メニューは何にしようかと、頭がいっぱいになるくらいです(笑)。先日は、「日本風カレーを作ろう!」と決め、完全カレーモードで、近所の大型スーパーへ嬉々として出かけました。すると、日本だったら、季節に関係なく必ず手に入るジャガイモ、玉ねぎ、にんじん、この3種類が、見事に、この日に限って売っていなかったのです。

前日から計画し、とても楽しみにしていたカレー。泣く泣くメニューを変えました。実はこの国では、大型スーパーといえど、野菜や果物の種類の品揃えにバラツキがあります。日本とこの国では、メジャーな野菜の種類は違うのかもしれませんが、大型スーパーで玉ねぎを売っていない日があるなんて、なかなか信じられませんよね。

でも、この品揃えの不安定さも、たまにはよいものです。というのも、前もって調べたレシピどおりの材料を調達するためスーパーに行ったとしても、完璧に揃えられないことがしばしば。仕方なく代わりになる野菜や調味料を探します。そうすると、最終的に、レシピどおりではなく、自己流の料理が出来上がります。レシピにただ忠実に沿って作るより、少し我流で作った時の方が頭にも残ります。結果、自分のレパートリーが広がったような気分になるのです。

買うつもりにしていた野菜が売られていなくても、好きな料理をすることには変わりはありません。自己流のレシピを考案でき、結局、料理中ハッピーな気持ちになっているものです。

また、急な停電に予定を狂わされることもあります。

先日、時差がある海外に住む友人と、スカイプで通話しようと約束をしていました。「さて、そろそろ約束の時間だし、インターネットを立ち上げよう」と、パソコンの前に座った途端、“パチーン”という音と共に、家の中が真っ暗になりました。電気系統は一切使えず、ネットもつながりません。友人に連絡は取れないし、いつ停電が収まるかやきもきしていました。

運がよければ5分で電気は戻ってきますが、1時間近く、そのままのこともまれにあります。結局、この時は20分ほどの停電で済みました。友人を待たせてしまったものの、とりあえず話をすることはできました。ただ、ここは常夏の国です。その友人を待たせてしまったことよりも、停電の間、クーラーが止まっていたため、汗だくになった顔を披露しないといけなかったことの方が申し訳なかったですが・・・(笑)。

フライト前に大停電が起こったこともあります。早朝フライトのため、起床時間は午前3時で、外はまだ真っ暗。暗い部屋の中で、クーラーも扇風機も使えず、汗をかきながら、懐中電灯とろうそくの光で準備をしました。暗い中でメイクをしたため、チークが必要以上に濃かったことは、後で空港に着いてから知ることになりました。

さて自宅で、なんとか出発の準備ができました。今度はエレベーターが使えません。7階の部屋から、スーツケースを抱えて階段を下りて、空港へ向かいました。フライト前にすでに汗だく、へとへとです。私の部屋は7階でまだよかったものの、もっと高層階に住んでいたら・・・と想像するだけでぞっとします。

計画していた通りになかなか実行できない経験が増え、お蔭で以前に比べ、多少のことにはイライラしないようになったと思います。相変わらず今もリストを書いていますが、よい意味で諦めも早くなったようです。

品揃えが安定していて当然、予定通りお店がオープンしているのが当たり前。それを基準に、この国で生活していると疲れてしまいます。逆に計画通りにいかないことが多いお陰で、臨機応変に対応する力や柔軟性がつきました。こうやって、海外生活を通して、逞しくなっていくものなのだなと感じる日々です。

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No 11 日本人は寒がり

私の勤める航空会社の機内は、とにかく寒いです。

元々、飛行機の中は寒いイメージがあると思いますが、その想像を軽く超えてしまいます。機内で観察していると、乗客の中でも、特に女性は、夏でも羽織るものを準備してらっしゃる方がほとんどです。

私も、かなりの寒がりで冷え性なので、乗客として乗る際、機内で配られるブランケット1枚では足りません。厚手の靴下やパーカー、ストールなど、羽織るものだけで鞄がパンパンになってしまうくらいに持ち込みます。やや長期の バケーションで遠出する時には、他社機に乗ることもあります。

先月も欧州系航空会社2社にお世話になりました。

とにかくまず、どちらも、その機内の暖かさに驚きました。いつもの調子で持ち込んだ羽織るものは一切使用せずに済んだのです。人一倍寒がりと思っていた自分が、ブランケット1枚で充分まかなえるほどの温度だなんて、なんて心地良いことでしょう!

ではなぜ、私の勤める航空会社はこれほどまでに寒く(涼しく)するのか。


それは、ここが常夏の国だからです。また、この国の人たちの平均体温は、日本人よりもだいぶ高いと聞いたことがあります。お客様をお出迎えする時、部屋を涼しくすることが、“もてなし”だという習慣があるからだそうです。その“涼しくする”という基準が、日本の私たちからすると限度を超えるくらい寒くなってしまうのです。

「まるで冷蔵庫の中にいるみたいですね」と、日本人旅客に言われたこともあります。

乗務員として機内にいる時は、自分は動いているのでまだ我慢できます。それでも、鳥肌になりながら働いている時もあります。じっと座っているお客様たちからすると、尋常でないほどの寒さであることは想像がつきます。

以前、男性のお客様に、「いくらなんでも寒すぎだ!君たちどんな神経しているんだ!」


とお叱りを受けたこともあります。本当にその通りだと思います。日本人的感覚だけで言えば・・・。しかし、この航空会社の基準は、日本ではなく本国です。

また、機内全体の温度を設定する権限を握るのは本国人の客室責任者(チーフパーサー)のみです。機内の乗客がほとんど日本人だという場合は、

「多くのお客様が寒いとおっしゃっているので、機内の空調をもう少しだけ暖かくしてもらえますか?」

と、伝えます。すると、ほとんどの客室責任者は、

「あ、日本人は寒がりだったね」

とすぐ理解を示し、設定温度を変えてくれます。たまに、

「こんなに空調の設定温度上げているのに、それでもまだ日本人のお客様は寒いっておっしゃっているの?」

と不思議そうにされることもあります。

時には、本国人CAたちも、「寒い、寒い」とぶるぶる震えているのに、温度を変えようとしません。それを見ていると、屋内はとにかく寒いくらいに設定するということが、彼らに染みついている習慣なのだと感じます。

ちなみに、私の航空会社では、日本人旅客へのイメージは、「礼儀正しい」がダントツ1位だと思います。その他には、

「こちらがちゃんとサービスしていれば優しいが、粗相して一度怒らせてしまったら大変」

と、日本人旅客に対し、すごく気をつけてくれるタイ人CAも多くいます。さらに、「寒がり」ということも、日本人のイメージ、トップ3あたりには入っているでしょう(別に統計を取っているわけではありませんが・・・)。

機内では、日本人のお客様から、毛布をもう1枚余分に頼まれることが多くあります。他の国のお客様に言われることは、あまりありません。その意味では、日本人は寒がりと言えます。

機内に限らず、この国のほとんどのビル内は、私にとって凍える寒さです。せっかくヨガにいっても、スタジオが寒いので、レッスン後、さらに手足が冷えていることも、たまにあります。(笑)

入社したての訓練時、1ヶ月ほど、びっしり朝から夕方まで、教室で座学の授業がありました。 常夏なのに、私たち訓練生は皆、制服のジャケットの上から首にストールを巻いたり、足にも別のストールをかけたり・・・、涙ぐましい防寒をして、訓練に臨んでいたものです。

そこまでしても、私たちにとってまだ教室は寒く、勇気を出して、「冷房を切ってもよいですか?」と誰かが教官に聞きます。そうすると、しぶしぶ切ってくれましたが、15分ほどしたらまたつけられました。

教官は、「冷房を切ると息ができなくなる」といつも言っていました。


実は、この教官に限らず、空調が効いていないと、息ができなくなると言うことはよく聞きます。以前、フライトが無事日本に到着し、ステイ先のホテルに着いてすぐでした。あるタイ人CAが真っ先にホテルスタッフのところへ向かい、深刻な顔で何やら話をしています。なかなか話が通じなかったようで、「通訳してくれない?」と頼まれました。

「今回使わせてもらう僕の部屋なのだけど、冷房が使えるかどうか聞いてくれないかな?冷房がつけられないと、息ができなくなるんです、って伝えて!」

ということでした。

そのタイ人CAいわく、1ヶ月ほど前のフライトで、このホテルにお世話になった時、まだ5月初旬だったからか、部屋の空調を、宿泊客が自由に調整できるように、まだ設定されていなかったようなのです。今は、すでに6月、ホテル側も、さすがに全室、空調を利用できるような設定にしていました。翌朝のバンコクへの折り返し便でそのCAに体調を尋ねたところ、

「ぐっすり眠れてよかったよ!」

と、とても爽やかな笑顔で答えてくれました。

私も、平熱がこの国の人たちのよう高ければいいのに、もう少し血液の循環がよければなぁ~と、うらやましくなることもあります。興味深いことに、この寒さに慣れてしまい、逆に体温が上がったという日本の友人もいるのです。

何にしても、体を冷やすことは特に女性にはよくないことですよね。せめて自分のアパートで過ごす時は、私は、冷房は冷えすぎない程度にしています。またフライト前には、果物や生野菜など体を冷やすものを食べるのではなく、温かいスープやお味噌汁を飲み、体を温めるようにしています。

人一倍寒がりである私が、常夏の国に暮らせるなんて、なんてありがたいことだと、入社が決まった時、家族一同喜んでくれました。けれど、実際は、体は相変わらず冷え性のまま、今も寒さと戦っている毎日です。笑

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No 12 美しさとは

この国にいる私の友人は、社内の人がほとんどですが、とにかく綺麗系な人が多いです。体重制限等、外見に厳しい会社の規則があるため、美しくいようと、ほとんどの乗務員たちは少なからず意識しているからです。

また、タイ人女性は、日本と比べると独身でいることを選ぶ人が多いため、年齢に関係なくいつも恋をしています!機内での空き時間、決して若いとは言えないタイ人CAと、恋話に花が咲くこともあります(笑)

そんな風に、年齢に関係なく、活き活きとしているタイ人CAたちに囲まれて仕事をしていると、私も、「女度を上げたい!」と、よい刺激を受けます。さらにこの国では、エステやネイル、歯のホワイトニング等、外見の美に磨きをかけることに、日本よりも安く済むという利点があります。

女度の高い人々に囲まれる職場、そして街中にはリーズナブルなエステや美容サロンの数々。この恵まれた環境がなくなってしまえば、自分の劣化は早いかもしれません(笑)。

美に関する情報は、特に女性なら誰でも興味があることですね。この国でも、日本同様、人々の美意識はとても高いです。ただ、その美しくなるための努力の仕方が、この国と日本では、少し異なるように思います。

日本の女性は、メイクやファッションで美しく見せようというだけでなく、元からの美、例えば、健康的な肌や髪を保つように心がけます。普段の食生活に気をつけたり、エクササイズ゙する人も多いですね。たまに、エステ等に頼ることがあっても、あまり手を加えすぎずに、自然な形で自分の美を磨く人が多いのではないでしょうか。

それに対し、この国の女性たちは、人工の力に頼ることにあまり抵抗がないようです。例えば、タイ人CA同士の会話の中で、たまに耳にする痩せ薬です。私は恐くて手を出せませんが、かなりの効力があるらしく、しかも簡単に手に入るそうです。整形も、日本よりもお手頃価格で行われています。普段から、多くの女性は、当たり前のように、かなり濃いメイクをしています。

日本で、働き盛り世代向け女性誌を見ていると、ナチュラルに見えるよう工夫されたメイク方法が、よく紹介されています。アイメイクが濃ければ、リップ゚の色を抑える等、メリハリのある方があか抜けているとも書かれています。確かに、日本の女性は、諸外国の女性に比べ洗練されていて、品があると思います。そうなので、私は、日本ステイ中、街に出て、綺麗な女性ウォッチングするのが大好きです(笑)。

タイでは、枠にはまらず、自分を上手に演出している人が多いなと感じます。日本的感覚でいえば、「派手なメイクだなぁ」というくらいの人の方が、「綺麗」とよく褒められています。カラーコンタクトやつけまつげ、太すぎるほどのアイライン、濃いリップ。日本の働く女性たちの間では、なかなか定番になりそうにないこれらを、あらゆる場所で違和感なく使用しています。

以前、日系航空会社の元CAの方とお話をしたことがあります。その航空会社では、CAは万人受けするメイクにするようにと言われるそうです。確かに、お客様は老若男女、色々な方が搭乗されます。それに、全体的に派手な乗務員よりも、優しそうで、ほんわかした雰囲気の方が、何か頼む時に声をかけやすいですよね。

それに対し、私の勤める会社では、いかに華やかに、美しく見えるかを意識した外見を、心がけるようにと言われます。CAは、数多くある部署の中でも、特に会社の顔となる存在。この航空会社のイメージに沿うように、華やかな外見を心がけろと言うのです。

訓練が始まって間もない頃のことでした。教官の一人は、外見に細かい毒舌な男性(中身は女性?)でした。私たち日本人訓練生数十名、顔を見渡され、

「皆、なんて地味なメイクをしているの!?」

と嘆かれました。当時、日本で人気のベージュ系のグロスをしていると、

「そのリップの色は、薄すぎて顔色が悪く見える!」

と注意されました。最終的には、訓練生全員、その教官が一押したショッキングピンク色の口紅を買いました。目元も、ベージュ系のアイシャドウをつけようものなら、

「ここにおばけがいる!」

との言葉。訓練終盤になると、皆、目の上は真っ青か紫、またはピンク色に染まっていました。さらに、清潔感を意識し、薄いピンク色のマニキュアをしていると、

「それで塗っているつもり!?」

と、呆れ顔。これまた訓練が終わる頃には、私たちの爪は、ピンクか真っ赤。

髪型は、「髪の毛の上部を盛らないと地味になる」とのアドバイスを受け、上品なシニヨンスタイルから、盛りに盛った夜会巻きに変身です。夜な夜な、ヘアメイクの得意な同期の部屋に集まり、皆で慣れない夜会巻きの練習をしたものです。

確かに、この国は、エキゾチックで彫が深い人が多いので、タイ人CAたちは濃いメイクや盛った髪型も、嫌味なく似合います。日本人の同期の中でも、何人かはタイ人仕様のメイクがばっちりきまっている者もいましたが・・・(笑)

訓練時の慣れない、ど派手なメイクをしていた自分の写真を見ると、美しさからはかけ離れており、今となっては、ただ恥ずかしさと笑いがこみ上げてきます。

機内では、派手なタイ人CAを見て、やや驚いている日本人旅客の姿もたまに見かけます(笑)。反対に、日本では、なかなか見ない華やかな雰囲気を醸し出しているタイ人CAを見て、「すごく綺麗ですね!」と言ってくださる若い日本人女性もいらっしゃいます。

目で楽しんでいただく。これも素敵なサービスの一環ですよね。私は残念ながら、外見で、お客様に「綺麗!」と言わせるほどの美貌は持ち合わせていませんので、自分に見合った方法で、乗務員である自分を演出していくしかありません。それも大事かな思っています。

私は、声をかけていただきやすい雰囲気を出すよう、柔らかい表情を心がけ、通路を歩く際は、静かにゆっくりしたりしているつもりです。もちろん、会社のルールに沿って、メイクなどはしているつもりではいますが・・・(笑)

いずれにしても、誰もが認める本当の美しい人というのは、内面が綺麗な人ではないでしょうか。メイクやヘア、もちろん外からのアプローチは、自分を美しく仕上げる大きな効果になります。身だしなみを整えることは、CAにとって大事なことには間違いありません。

ただ、お客様をおもてなししたい、お手伝いをしてさしあげたいという、心から滲み出る優しさやオーラは、まつげやネイルのように外側からつけ足すことはできませんよね。また、前向きな人が醸し出す目の輝きや姿勢、これらも内面から自然に湧き出てくるものですね。私も、外見を整えるのはもちろんですが、日本とこの国それぞれのよさを吸収し、いつまでもイケイケで目の輝きが衰えないタイ人CAからも刺激を受けながら、内面も磨いていきたいと思っています。

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No 13 赤ちゃんにキス?

ここ最近、訪日外国人が増加しているという嬉しいニュースを聞くようになりましたね。私のタイの人たちにも、日本はとても人気です。近頃の日本行きの機内には、本国人旅客の数が倍増しています。さらに、以前に比べると欧米からのお客様も搭乗されてきます。

今はクリスマスのホリディシーズンということもあり、お子様連れのお客様が多く、子ども大好きなタイ人CAたちは、お子様が乗ってこられると、「可愛い~!!」と皆テンションが上がります。私自身も含め、呼ばれなくても(笑)、赤ちゃんや小さなお子様のところへ行き、お話したり遊んだりしています。

その時の親御さんたちの反応は、国籍によって変わります。例えば、タイ人の親たちは、お子さんが乗務員に抱っこされたり、ギャレーにお子さんだけ行かせて遊ばせたり、ということに抵抗がないようです。

「その間だけでもゆっくり休めるわ~」

という感じです。子どもは、親だけでなく皆で可愛がるというスタンスが、この国には根ざしているからでしょうか。

以前、赤ちゃん連れの欧米人家族が搭乗された時です。


赤ちゃんの柔らかい金髪と、真っ白な肌、そして、瞳の色はブルー。搭乗してきた時から、あまりの可愛さに、その赤ん坊に皆の目は釘づけです。サービスが一段落し、早速、私もタイ人CAと一緒に

「お名前なんていうの?」
「可愛いお嬢ちゃんですね」

声をかけに行きました。抱っこさせてもらったり、ご両親から旅の話を伺ったり。赤ちゃんもニコニコ笑っています。とても和やかな雰囲気が漂っていました。

そして、しばらくするとタイ人CAが赤ちゃんの頬にキスしました。


その瞬間、お母様が明らかに迷惑そうな顔をしました。そして、そのタイ人CAがギャレーに戻った瞬間、お母様は急いで赤ちゃんの頬を拭いているのを見てしまいました。

タイ人CAたちは、ただ単純に子どもが可愛いから近寄っているだけではありません。親御さんにもフレンドリーに話しかけることで、機内という密室で小さな子どもの世話をするストレスを、少しでも明るく軽くしてさしあげられたらという気持ちなのです。

しかし、確かに、私が母親の立場だとしたら、相手が乗務員でも、自分の赤ちゃんの顔にキスされるのはいくらなんでも嫌だなと思いました。

普段、世界中を飛び回っているタイ人CAたちは、色々な文化の人々と触れ合っています。欧米の人たちは、あまりべたべたしすぎたサービスは望まないということも、心得ているはず。しかし、子ども大好きな文化のもと生まれ育ったせいか、この時ばかりは、天使のようなかわいい赤ちゃんを前にして、プロ意識が吹っ飛び、キスしてしまったのでしょう・・・。

さて、機内には、ヨダレかけや塗り絵、シール等、数に限りはあります。お子様用のグッズ゙が用意されています。私たち乗務員は、それらを離陸前にお子様に差し上げるようにしています。しかし、満席の時など出発準備にバタバタしてしまい、すぐにこちらからお渡しに行けない場合もあります。そういう時は、

「子ども用のオモチャないの?」
「3人いるから、3つ持ってきてね!」

等、リクエストを受けます。たいてい、本国人の親御さんからです。

また、お母様一人で、お子様や赤ちゃんを連れて搭乗された場合には、

「手がふさがっているから、荷物を取って!」
「入国カード代わりに書いて!」
「私トイレ行くから、子どもを見ていてもらえますか?」
「子どもがやっと寝ました。今私の食事持ってきてもらえる?」

といったように、私たち乗務員がお手伝いすることは多々あります。しかし、こうはっきり頼んできてくれるのも、やっぱりタイ人の母親がほとんどです。

実は、日本の親御さんからは、こちらから伺わない限り、何かを頼まれることはほとんどありません。お客様側から何か頼まれることといえば、熱が出た等の緊急の場合か、哺乳瓶にお湯を入れるくらいでしょうか。

先日、日本人のお母様がお一人で、5ヶ月の赤ちゃんと3歳のお姉ちゃんを連れて搭乗されてきました。

保護者が一人だけだと、食事もろくに取れないし、お化粧室にも行けません。何かお手伝いできることはないか、様子をうかがいに座席まで行ってみると、ちょうどそのお母様は、お子様たちを座席に残してお化粧室に行ってしまわれていました。

急な揺れ等、緊急事態に備え、赤ちゃんやお子様を座席に残してお化粧室にいくことはとても危ないことです。そのフォローをするのが乗務員の役目なのに、私の対応は遅かったのです。

ちなみに、いつものようにタイ人CAが赤ちゃんや小さなお子様に話しかけて遊んでいても、大体の日本の親御さんは

「○○(お子さんの名前)、このCAさんはお仕事でお忙しいのだから、あまり話しかけちゃ申し訳ないでしょ」

というようなことをおっしゃいます。また、先ほどのようなお母様お一人とお子様の場合、タイ人CAが、

「もしよろしければ、私がお子様のお相手をさせていただきますので、お食事召し上がりませんか?」

というアプローチをしても、ほとんどの方はやはり遠慮なさいます。遠慮をする、これも日本の美徳の一種と言えるのでしょう。

「日本人旅客は楽だね」

という本国人CAがたまにいますが、それは少し違うのではないかなと内心思います。特に日本人旅客を相手にサービスを提供する時には、「用があれば呼ぶだろう」ではなく、こちらから察してお手伝いができるよう、常にアンテナを張っておく必要があると思うからです。

もちろん、中にはちゃんと日本人の繊細さや厳しさに気づいており、日本線に乗務する時には、頼まれなくてもこちらから話しかけてお手伝いするなど、積極的にアプローチしている乗務員もたくさんいます。あるタイ人CAは、国籍によってサービスに差をつけているわけではなく、それぞれの国柄にあったアプローチ方法にしていると言っていました。そういう話を聞くと、さすがだなぁと思います。

増えている訪日外国人。


機内は、以前よりも多国籍になり、客層の幅も増えてきています。かわいい赤ちゃんが乗ってきてくれると、確かにテンションは上がります(笑)。

しかし舞い上がるだけではなく、この国の航空会社の基準に沿いつつ、欧米のお客様にはドライなサービス方法を、要求の多いタイ人旅客にはとにかくフレンドリーに。

そして日本人旅客の場合は、言われなくてもこちらが察してお手伝いできるようなサービスができたらいいなと思っています。 少なくとも、赤ちゃんが天使のようにかわいくても、キスはしてしまわないように気をつけないといけませんね!

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No 14 NGポイントが謎???

先日バケーションを取り、プライベートで自社便を利用していた時の出来事です。

私は、ギャレーから数列離れた座席に、乗客として座っていました。まもなく食事サービスが、開始されるという時でした。ギャレーの中から、“ガッシャン!バッタン!”と鳴りひびいてきます。

何事かと様子を見に行ったら、その音は、本国人男性CAの元気過ぎる仕事っぷりが原因でした。彼はただ、通常のギャレーワーク(機内食の準備等)を行っているだけでした。
しかし、とにかく彼は荒っぽく、食事を入れるMeal Cartを所定の位置から出し入れする時、食事を温めるオーブンのドアの開閉時・・・。さらには話し声まで、人一倍に大きかったのです。

いつも通りのこの作業、どうしても多少の音が出るのは避けられないものの、これほど、客席まで響き渡ることは滅多にありません。どう考えても、近くに座ってらっしゃるお客様にかなりの迷惑です。


ギャレーから漏れる音のうっとうしさを、自分が乗客として乗るとより実感します。それをその乗務員に伝えたいとは思うのですが、彼は私の先輩です。Seniorityが絶対の国で、後輩から先輩に物申すことは許されません。

そんな時、知り合いの超ベテラン女性CAも同じ客室担当で乗務していました。その彼女が私に寄ってきて、

「彼の動作、あまりにもうるさすぎない?あなたの席にも聞こえるでしょ?もう少し静かにしてって伝えた方がいいわよね。でもそしたら彼、傷つくかしら・・・」

と彼女は言うのです。 注意をしようか迷っており、なかなかはっきり言えそうにありません。

私は入社前、

「この会社は外資系だし、日本に比べると、はっきり意見を交換し合うような職場なのだろうな」

といイメージを勝手に抱いていました。しかし、実際乗務するようになり、その予想は間違いだと知ることになります。この国の人たちは、上司や先輩に対立して意見を言うことは、まずありません。


同僚同士でも、指摘し合う場面を見ることはほとんどないのです。自分の意見をはっきり口に出す人も、いることはいますが、それはかなりの少数派です。

この国では元々、特に職場では、「人に注意する」、もしくは、「人から叱られる」ことが習慣としてほとんどないようです。そのため、いくら相手が後輩であろうと、些細なことでもなかなか注意することができないのです。

結局そのベテランCAは

「少し音が多すぎるんじゃないの~?ははは(愛想笑い付き)」

と、かなりの勇気を出して後輩の彼に助言(?)しました。言われた彼は、それから少しだけ、最初より静かな作業を心がけているように見えましたが、 人に注意されたこと自体に、納得がいかない雰囲気でした。結局、ベテランCAは、その後も、

「私、言い過ぎちゃったかしら!?」

とずっと気にしていました。この国では、大抵は、

「意見を言い合ってぶつかるのは面倒」

「深く考えず、楽しくやろうよ!」

つきあいづらい同僚がいても、

「あの人と衝突したって、自分の気分が悪くなるだけ。適当に合わせるフリして、放っておけばいいのよ」

といった感じです。

また、

「はっきり言ったら傷つけちゃうでしょ。だから言わない方がいいんじゃない」

と、相手を傷つけるかもしれないと、気にして、言いたいことを我慢しているタイ人の姿をよく見ます。

が!ところがです。


その繊細さはどこへ行ったの!?と聞きたくなるようなくらい、ずばずば言うこともしょっちゅうあるのが不思議です。この国では、基本的に骨格が小さく、若いうちは痩せている人が多いです。そのためか、大して太っていなくも、「おデブちゃん」扱いされます。別に、特に仲がよい関係でなくても、

「君、太っているもんねー!」

という感じで、本国人同士がからかい合っているのをよく見ます。

この国に来たばかりの頃は、誰かが、「おデブちゃん」と呼ばれている場面に出くわす度に、驚きました。呼ばれている人が傷つくのではないかと、ハラハもしました。でも、どちら側も気にしている様子もないのです。


もちろん、キャラの問題や、日本人の私にはわからない言い回しもあるのでしょう。
でも、「おデブちゃんとからかわれるよりは、仕事のことで注意される方がまだいい」と思うのは、私だけでしょうか?

私も、けっこう言われてきました。ある時、

「あなたはホスピタリティがあって、優しさが滲み出ているわ!お客様も、あなたのことよい乗務員だねって言っていたわよ!」

と、本国人の先輩に褒められたことがありました。とても嬉しかったのですが、そのあとの彼女の言葉で、なんとも複雑な気持ちになりました。

「私、最初、あなたは特別な美人ってわけじゃないし、冷たそうな顔しているから、いまいちだと思っていたの。でも性格はいいのね。重要なのは、よい心とやる気よね!」

彼女に悪気はありません。

また、日本から来ていた友達の観光案内をしていた時のことです。丸1日タクシーをチャーターし、色々なところを回りました。タクシードライバーは安全運転を心がけてくれ、さらに明るくていい人です。皆、気持ちよく過ごしていました。

ただ1つ、私は日焼けが気になっていました。


ここは常夏なので、半袖の服を着ていたのですが、朝家を出る前に日焼け止めを塗ってくるのを忘れていたのです。しかも、私の座っていた助手席には、日光が思い切り差し込んできていました。私は肌が陽に直接当たらないよう、途中からストールや上着を羽織り、手足をカバーし始めました。それを見ていたドライバーは

「どうしたの?寒い?」
「寒くないよ。日焼け対策しているの」
「えっ君、元々浅黒いタイプの肌じゃないの。変わらないって、気にしない気にしない!ははは!」
「ええっ、そうかな。私そんなに浅黒い肌をしているかな?ははは・・・」

これらのように、微妙に、チクリとくる言葉を今まで何度となく言われてきました。冷静に考えてみると、この国の都市部の女性たちの美意識は、日本と同じように、かなり高いです。

街中を歩いていると、色白の綺麗な人はたくさんいます。


タイ人CAの中には、元モデル、元アナウンサー、数年前のミス○○という人までいます。それくらい綺麗で華やかな人たちが集まる街と職場なのです。そんな環境の中にいるので、かなり平均的な私が、「顔はそこそこ」「肌は白くない」と言われたって当たり前、いちいち反応して、落ち込んでいてはやっていけないと割り切るしかありません(笑)。

少し注意されただけでも、傷つくほどプライドが高く繊細かと思えば、平気でずばずば言うところもあるこの国の人たち・・・。何を言ったら、彼らは傷つき、怒るのか。そのポイントがはっきりわからない時が、いまだにあります。

同じアジア系ではあるものの、やはり考え方や文化は違います。おそらく私も、逆に気づかずに酷いことを言っているでしょう。そう考えると、グサグサ言ってくる彼らに悪気はないのでしょう。今後も、グサリと言われるとことは、幾度となくあると思います。

「顔はいまいちでも、ホスピタリティがあると褒められたじゃないか」
「多少肌が浅黒くても、アクティブで健康的な証拠ってことだ」

嫌なところは聞き流して、よい部分に目を向けられるようなめげないハートを育て中です。

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No 15 機内での食事時間

私たちが乗務している日本線は、以前に比べると、日本人以外のお客様も増えてきてはいるものの、まだまだ日本人旅客が圧倒的に多いです。

英語を話せる日本人客が諸外国に比べて少ないので、

「高齢のお客様が何か質問あるそうなんだけど通じない、来てくれない?」
「機内免税品のお釣り、日本円が足りない。あなた小銭持ってない?両替してちょうだい」
「お客様を怒らせてしまった。謝罪したけど許してくれないんだ。通訳してくれない?」

日本人CAは1便に1、2名しか乗務していなので、いつもすぐにお呼びがかかります。

たまに、文化の違いが原因で問題が起き、タイ人CAと、日本人旅客の板ばさみになることもあります。日本人CAが私ひとりの時は、なかなか誰とも共感できず、内心落ち込むこともあります。そんな私の機内での気晴らしは・・・食べることです。

入社してすぐは、機内食を食べるのが楽しみでした。機内食は、乗客数にプラスして乗務員の分も搭載されてきます。入社当時は機内食が新鮮で、とても美味しく感じました。

カロリーが高いと言われている機内食を頻繁に食べるので、体重維持をするのに大変な思いをするCAたちも少なくないでしょう。私の航空会社の場合、メニューは1ヶ月ごとに変わります。数十種類あるメニューがローテーションで回るので、数か月前と同じものにあたるので、さすがに何年も食べていると飽きてくるものです。

ここ最近は、家でおにぎりを作ったり、日本ステイ中にご当地弁当やお菓子を買ったりして、自分で機内に持ち込むようになりました。ほんの10分から15分ほどの時間ですが、暖かい飲み物と一緒に、持ち込んだお弁当やお菓子を食べると心も落ち着きます。そんな色気のない花より団子状態の私ですが、そういう所がこの国に合っているなと感じる大きな1つです。

というのも、タイ人たちも食べることが大好きなのです。

多くのタイ人CAたちは、帰りの機内に、日本ステイ中に購入した食べ物を持ち込みます。皆で分け合う文化なので、ギャレー内でささやかなお茶会がしょっちゅう行われます。

彼らは本当に様々な食べ物を持ち込みます。入社してすぐの頃、度胆を抜かれたのがホールケーキです。

「ホールケーキを機内に持ち込むんだ!?」

十数名いるCA全員に分けるため、そのCAはホールケーキを2つも購入していました。誰かの誕生日というわけでもなく、ただ彼女のお気に入りケーキだったそうです。

サービスが一段落してから、彼女は人数分に切り分け、他のCAたちに配ってくれました。その日は満席の深夜便でしたが、心身ともに、そのケーキから元気をもらいました。

他にも、今では当たり前の光景となりましたが、まだ私が初々しかった頃にとても驚いたことがあります。ニンニクたっぷりの料理をギャレーに広げ、皆で頬張っているのを目撃したのです。

例えば、日本の焼き餃子。タイ人CAの間で人気が高く、私も大好きです。でも、フライト前(ましてやフライト中も!)は食べないようにするのが、サービス業に従事する者の心得だと信じていました。 しかし、本国人CAたちにとっては、ニンニクもなんのそのなのです!笑

元々、タイ料理はニンニクやハーブをふんだんに使用するので、日本や欧米に比べると、ニンニクの匂いには寛大なのかもしれません(笑)。

一度、「納豆の方がくさいじゃないか!」と言われたこともあります(笑)。

この国の人たちは、日本のお菓子も大好きです。人気ナンバーワインスイーツは、生クリームが入ったモダンな大福です。これはほぼ毎便、買っている姿を見ます。他にも、スーパーで売っている普通のスナックや、チョコレート菓子・・・。

「日本のお菓子は本当に美味しい!」

と本国人たちは口をそろえて言います。

「明治のアーモンドチョコは、あの品質であの値段というのは信じられない!」

と熱く語られたこともあります。

お菓子に負けず人気なのが、日本の果物です。いちごや柿、みかんも、機内でよく食べています。本国人たちは、自分だけで食べるのが寂しくてつまらないからか、ケチと思われるのが嫌なのか(笑)、物を分け合うのが彼らの文化のようです。

「見栄っぱりなだけだよ」と、タイ人が言っていたのを聞いたこともありますが・・・。

一度、焼き芋を頬張っているタイ人CAに、食べかけの芋を差し出され、「食べる?」と聞かれた時にはさすがに断りました。ちなみに、最近、私が持ち込んだもので皆に人気があったのは、大学芋でした。

先日のフライトで、厳しいと噂されているチーフパーサーにあたりました。大らかな本国人らしくなく、仕事に対してとても細かい人でした。また、人々の表情が優しい印象が強い国なのに、彼はほとんど笑いません。

サービスが終わって、乗客の様子も落ち着き、さて、皆の大好きな時間になりました。ギャレーでささやかな食事会が始まります。

そのチーフは、自分のスーツケースをゴソゴソしています。彼は、日本のスーパーで買ってきたお惣菜のサラダ、カニかま、鰹節を取り出してきました。さらに、胡麻ドレッシングの瓶も手に持っています。

カニかまを一つずつ袋から出して、サラダに混ぜ、鰹節を最後にふりかけ、胡麻ドレッシングをダボダボかけています。タイ人は味を濃くするのが好きなので、通常サイズの瓶のドレッシングは2、3回ほどで使い切るそうです。

彼のこだわりっぷりがあまりにも興味深かったので、近寄ってみると、なんともうれしそうな表情で食事の準備を進めています。

「鰹節は、たこ焼きを食べた時に知ったんだけど、サラダに混ぜたらよさそうだと思ってやってみたら、本当に美味いね!」

しかし、これはあくまで前菜で、オーブンで厚揚げも温めているとのこと。これにも鰹節をのせ、醤油をかけています。怖い人だということも忘れ、私はまじまじと、彼の準備する様子を隣で見入ってしまいました。

最後のメインは、インスタント焼きそばのUFOです。

「これは息子も好きなんだ」

と、美味しそうに頬張っていました。

その後、怖い印象だった彼に一気に親近感がわき、会話も増えました。このチーフのように、ほんの短い食事時間を通して、相手を見る目が変わり、仕事をしやすくなることもよくあります。仕事上でイライラすることがあっても、食事の時間になれば、自分が買ってきたお菓子やおかずを分け合い、嫌な気持ちも流せるものです。

食べることが大好きな私には、たまらない同僚と職場です。

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No 16 楽がすべて!(ゴミ事情)

日本では、地域によって多少の差はあるものの、ごみの分別は、当たり前のことですよね。 例えば、瓶の類と生ごみを一緒に捨てることに、日本人なら抵抗があるでしょう。

ところが、私の暮らすこの国の人々には、そんな抵抗はほとんどありません。この国では、ゴミを分別する必要はなく、何でもかんでも一緒に捨てていいのです(当時)。

この国に移ってきてすぐの頃、不燃物と可燃物を一緒に捨てるのに抵抗があり、自分なりにゴミの種類を簡単に分けてからゴミ出しをしていました。そんな私の姿を見たこの国の人は、

「そんなことする必要ないよ!どうせ後で一緒にされるよ。それに、捨てられたゴミを分別する仕事の人もいるくらいなんだから!」

と、時間の無駄だとでも言わんばかりに私の行動にあきれていました。廃棄物をさらに分別する仕事があるなんて、日本に住んでいた頃には考えもしなかったことなので、とても驚きでした。

私の住んでいるコンドミニアムでは、各階の階段の踊り場に大きなバケツが置かれており、各階の住人が、家庭ゴミをそこに捨てに行くようになっています。そのたまったゴミを、コンドミニアムの清掃員が1日に何度か回収しに来てくれるのです。

<燃えるゴミの日><荒ゴミの日>などと区別をしなくていい上、捨てる場所は、同じ階の踊り場。

時間帯も、いつでも捨てていいので、日本と違って何も気にしなくてよいのです。日本で学生時代一人暮らしをしていた時なんて、ゴミ出しの日をすっかり忘れていたり、朝寝坊をしたりして、空ペットボトルをよく部屋にため込んでいたものですが・・・。

家をしょっちゅう空ける今、いつでも必ずゴミを出してからフライトに行けるので、本当に助かっています。

これほど自由な状態であっても、踊り場のゴミ捨て場や廊下が汚れていることはまずありません。私たち住人がこれほど心地よく過ごせているのも、清掃員のおかげです。中年の女性が清掃をしてくれていますが、たまに廊下やエレベーターで会うと、笑顔で必ず挨拶をしてくれます。

ある日のことです。買い物から帰ってくると、いつものように清掃員の女性が掃除をしていました。

「いつもありがとうございます」

挨拶をして通り過ぎようとした時に、ちらっと視界に入った彼女の足元。よく見ると、私が数日前に捨てた靴を履いていました。最初は、「たまたまお揃いかな?」 とも思いましたが、どう見てもやはり私が捨てた物でした。古くなったからと何気なく捨てた靴でしたが、まさかこんな身近な人がリサイクルしていたとは・・・。

また別の日、近所を歩いていると、作業終わり帰宅途中の彼女とすれ違いました。

「もう帰るわね!さよなら!」

手を振り、通りすぎて行った彼女の肩には、私が捨てた鞄がかけられていました。私は、その鞄をわりと長く使っていました。元々付いていたリボンが取れてしまい、捨て時だと決心して、踊り場のバケツに入れた鞄。

おそらく彼女は綺麗に洗ったのでしょう。もう使えないと判断して処分した物が、あまりにも身近な所でリサイクルされている様を見るという、日本ではなかなかない体験です。彼女が再利用している姿を見て、物って、案外、自分が思った以上に長く使えるものなのだと知りました。

ゴミの分別の他に、日本と大きく違うのが、スーパーマーケットでの袋事情です。

日本では、エコバッグが推奨されていて、スーパーのレジ袋を減らしていこうという動きがだいぶ前から出ていました。実際、ここ数年で、袋が有料制になったところがほとんどですね。

それに対し、この国では、スーパーで買い物をすると、”どれだけ奮発してくれるの!?” というほど大量の袋をくれます。

日本では、買った物を自分で袋に詰めるのが一般的ですが、この国ではレジの店員さんが詰めてくれます。例えば買った物が、乾電池、牛乳、ヨーグルト、卵、果物だとします。

全部一緒に入れてくれていいのですが、まず店員さんは、乾電池だけ別の袋に入れます。そして、次に食料品だけの袋を準備しますが、牛乳や卵など少し重めな物がある場合は、袋を2重にしてくれます。

日本ステイ中、私もエコバッグを持ち歩くようになりました。しかし、たまにスーツケースに入れ忘れ、持参できないこともあります。そんな時、ステイ先によっても、


”この地域では袋が5円”
”ここでは、まだ無料”


と、なかなか覚えられません。

「日本は最近袋有料になっちゃったね。偉いわー。私たちなんて、楽で便利だったら、それでいいって考えしかないからねー」

と、日本のスーパー大好きタイ人CAたちは言っていました。

この国では、現代の世界的なエコフレンドリーな動きと正反対の生活環境の中で、人々は暮らしています。確かに、買い物にしても、ゴミ出しにしても本当に楽で助かっています。しかし、

≪ゴミはちゃんと分別されないまま焼却され、街中に有害な物質が出た≫

というニュースを最近見ました。車の排気ガスも手伝ってか、都市部の空は、青ではなく白い色をしていることが多いです。この国では、まだ国民のほとんどの間でエコという概念が浸透していないため、仕方がないことかもしれません。ただこの街で、深呼吸して空気が美味しいと思ったことは一度もありません。

ウォーキングジョギングなんて、外でなかなかやる気が起こりません。「楽・便利」であることの代償は、今考えているよりも将来自分の健康に大きく影響してくるのかもしれません。

これだけこの国の生活に慣れていると、将来、もしも日本やヨーロッパで暮らすことになったら、最初は、再適応するのに苦労するだろうなと思います。

しかし、

「なんて空気が美味しいのだろう!」

と、感動はあるでしょう。たまに日本の実家に帰ると、家族に、

「これとこれって、一緒に捨てていいんだっけ?」

といまだに聞く、私なのでした。

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No 17 この国の結婚式

今、私の周りでは結婚・出産ラッシュです。


ここ数年、何度か友人に式に呼んでもらい、参列してきました。一番最近参加したのは、この国で行われた式でした。新郎新婦やご親族、参列者すべての人たちがリラックスできるとても素敵な時間で、たっぷりと幸せを分けてもらってきました。

新婦である友人は、会社のCA同期で日本人です。お相手の新郎はタイの方、国際結婚カップルです。


会場は世界的に有名な5つ星ホテル。


日本から、式のため、海を越えてお越しになった新婦のご両親の横には、通訳者の方がずっとついていました。言葉が通じない上、日本とは全く違う儀式が数多くあるため、新婦のご両親も、終始お困りなのでは・・・と、最初は思っていたのですが、意外にもリラックスモードのご様子でした(笑)。

というのも、例えば、厳粛なムードの中行われる神社や教会での日本の神前式に比べ、こちらでは儀式の途中で、出入りすることができ、参列者もパシャパシャ写真撮影をするのもありです。神聖な空気が流れてはいましたが、小さな子どもたちがお喋りすることも許されていました。

        
立派なホテルでの式にも関わらず、リラックス感を演出していたもう一つの理由があります。

それは参列者のファッションです。日本では、肩出しと素足はNGですよね。また、花嫁とかぶらないよう白い洋服を着るのもタブーです。

海外での挙式ですし、私自身の服装も、日本と同じようにしなくてもいいかな?とも思っていました。しかし、新婦は日本人、ご親族も多くいらっしゃる、会場は立派なホテルだし・・・と考え、私は日本でも着られそうな、フォーマルな洋服をチョイスしました。しかし当日、タイ人参列者たちの服装を見ていると、素足率はとても高く、白の洋服を着ている人も発見・・・(笑)。

お待ちかねの披露宴では、日本では司会者は必須ですが、ここではいません。式場から移動して、披露宴の席についた人たちから、順に料理のコースが運ばれてきました。

いつの間にか、なんとなくスタートするという感じです。しばらくすると、新郎新婦も登場し、披露宴会場のテンションも一気にアップ!ちなみに、日本だと、特に新婦は、お色直しや相手の親族、会社の上司の方々への気づかいなどをしているうち、食事を食べる時間がなく終わってしまうことがほとんどでしょう。

しかし、私の友人は綺麗なウェディングドレスを身にまとったまま、ご家族に囲まれながらパクパク美味しそうにご馳走を食べていました!(笑)。デザートも終わった頃、まわりを見渡すと、会場に残っているのは新婦側の日本人参列者のみ。新郎側の本国人参列者は、皆あっという間に帰っていました。


いつの間にか始まり、いつの間にか終わる。終わったら、余韻に浸ることなく、さっさと去る。この国の人のこういうあっさりしたところが、私は好きですが・・・(笑)。

後日、その新婦だった友人と一緒に食事に行きました。
「準備とか大変だったでしょ~」
と、まだ余韻さめやらず、式の話題で盛り上がる私たち。すると、彼女から驚きの話を聞きました。

式当日、実際に予定していたよりも、新郎側の招待客が5人も多く来ていたそうなのです。披露宴での、あの立派な食事のコースを、急いで、5食分で追加オーダーしたそうです。 それだけでも大きな出費だったとか。この国の人たちは、式の出欠を、当日まで連絡をしない人も、わりといるそうなのです。確かに、以前、

「友だちの式に呼ばれたけど、当日の朝の体調次第で行くか決めようかな~」

とのんきに言っているタイ人CAの話を聞いたこともあります。

日本ほど、結婚式が、人生の中でも、ベスト3に入りそうなほどのビックイベントという感覚はないのでしょうか?思い返してみれば、以前、仲良しのタイ人から、

「来月の○○日に結婚式を挙げる予定なのだけど、来てもらえるかな?フライトスケジュール調整できる?」

と、嬉しい連絡が来ました。

「もちろん!」

「ありがとう。それじゃあ詳しい場所と時間を書いた招待状を改めて送るね」

と言われて電話を切りました。そのまま、結局、連絡は来ず、風の便りで、無事に式を挙げたという話を聞きました。

また、この国でのご祝儀の習慣も、日本とは違うようです。新婦の友人いわく、日本のように3万円、5万円など、ほぼ決まった額はなく、「気持ちの分だけを包んでください」と伝えているそう。

ルールに忠実な日本人の私たちは、通常ほとんどの人が3万円を包むでしょう。しかし、本国人参列者の人たちが包んだ額は、本当に様々だったそうです。日本で考える額の2倍以上の参加費を包んでくれた人もいれば、半額以下の人たちもいたそうです。貧富の差が激しいこの国ならではですね。

今振り返ってみても、立派な会場や食事ではあったものの、こんな風にリラックスできる式は、まず日本ではお目にかかれないでしょう。

肩の凝らない感じが、いかにもこの国らしいです。


新郎新婦たちも、参列者たちも、形式にとらわれず温かい式でした。私も30歳を過ぎたあたりから、友人の式に参列させてもらう機会が増えている日々ですが、この国での結婚式は、今までの中でベスト3に入るのではないかというくらい感動しました。

私はあまり乙女チックなタイプではなく、「自分は式や披露宴はやらなくてもいい」とずっと思っていました。憧れがほとんどなかったのです。でも今回のこの式をきっかけに、自分が、無事に?結婚する時には、式を挙げるのもいいかもしれないなと、考えが大きく変わりつつあります(笑)。

やっぱり女性にとっては、綺麗にメイクをしてもらい、素敵な会場で、家族と仲のよい友人に祝ってもらうことは、幸せなことなのだなと、大きく感化された最高の式でした。

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No 18 あと片付け

先日の日本ステイでのことです。


友人とスターバックスでお茶をしました。帰り際、私が飲み終わったコーヒーカップをテーブルに置いたままに去ろうとしたら、「あれ、カップ捨てないの?」 と友人に突っ込まれました。

「そうだった、ここは日本だった!」

同じアジアとはいえ、この国と日本、違う習慣は数知れず。この両国の往復生活で、たまにどちらの習慣だったのかを忘れてしまうことがあります。そのうちの一つ、

「使い終わったものや食べ終わったものは自分で捨てる、もしくは元に戻す」

日本では、マクドナルド等のファーストフード店では、「返却口」という場所があり、食べ終わったものは自分でゴミ箱に捨てて帰ります。使い終わったもの、借りたものは元の位置に戻すというのが日本人。


食後には、ティッシュや紙ナプキンも、日本女性は大体綺麗に折りたたんで目立たないように戻すでしょう。割りばしは袋に戻し、使い終わったしるしに端を折る、そこまでする女性も日本には多くいます。

片付ける人のことを考えての行動ですよね。先日行なわれたブラジルワールドカップでは、こんなニュースも流れてきました。

「日本代表の試合後に、日本人サポーターたちが観客席のごみ拾いをしたことをたたえ、リオデジャネイロ州政府は11日、サポーター代表として駐リオ日本総領事や地元日系団体代表を表彰した」

タイでは、自分が客として利用した時、使い終わったものを元に戻すという概念はありません。例えば、スーパーに買い物に行った時、使い終わったショッピングカートを定位置に戻す人はほとんどいません。レジ周辺や駐車場の中に、皆放って帰ります。

スターバックスのようなカフェやファーストフード店でも同じです。食べ終わったものを、自分で捨てて帰ることはまずありません。掃除係の人が必ずいて、さっさと片付けてくれます。


けっこう驚くのは、タイ人たちの食べ終わった後のテーブルの荒れ様です。美しい女性たちでも、使い終わったティッシュ類を、日本女性のようにきれいに折りたたんだりはしません。テーブルにソースをこぼしてもそのまま、床に食べ物を落としても拾わない等々、日本的な感覚でいえば、かなりの緩さです。

機内でも、違いはよく出てきます。


飛行機が到着し、旅客が降りた後の機内は、その便に日本人乗客が多かったのかそうでなかったのか大体わかるほどです。


乗客が全員降りた後、忘れ物チェックを行います。残された座席の荒れもようが、ビジネスマンで満席だった時、子連れの家族が多かった時、海外の人たちが多かった時・・・と、大きく異なります。

さらに、同じお子様連れといっても、日本人と他の欧米やタイ人たちとの座席の荒れ方もまた違います。

日本人旅客で子連れの方々は滅多にありませんが、タイ人の子連れだと、お子様のお菓子の食べ残しや、空き袋、飲み終わったパックジュース等、ゴミ屑の山です。毛布やクッションも床に投げ出されています。

忘れ物チェックをしながら、地上のクリーニングスタッフは、とても大変だろうなと気の毒になるほどです。

日本人旅客の行儀のよさが、とにかく顕著に表れるのが、読み終わった新聞の状態です。日本人が読んだ後の新聞は、ほとんどの場合、ほんの少したたみ直せば、またすぐに別の人に回せそうなほど綺麗にたたまれて座席ポケットに残っています。

他の国の人たちは、一部は床に落として気にしないまま、靴で踏んでいただろうなというほど汚れてしまった新聞が落ちていたりします。折り目は変則的で、もう元には戻せないような状態で放置されていたりします。

日本人の多くは、次に使う人のこと、周りのことを無意識にでも考えて行動しているのではないでしょうか。世界中でとても貴重な国民性であると思います。

この国では、利用する人と片づける人と、うまいこと分かれています。ものの扱い方も、あまり丁寧ではない場合が多いです。そういう文化の中で生まれ育った人たちなので、自分が飛行機を利用した後、次の利用者のことを考える習慣はないのでしょう。

「それを掃除する人はかわいそうだけど、それが彼らの仕事だしね」

という感じです。

この国の人々の国民性は、生真面目になりすぎず、周りのことを気にせず、よい意味でも悪い意味でも、自分のことが第一という考えです

自分が散らかしたら、当たり前のように後から処理してくれる人がいます。こういう仕組みになっているので、国民もそうなっていくのでしょう。

数年前に三十路を過ぎた私。


品のある女性を目指そうと、日本ステイ中に、マナー本や女子度がアップするような本を買い読み漁っています(笑)。本を読んだ後はしばらく気分が上がり、素敵な女性を意識して行動します。

しかし実際のところ、日本の外へ出ると、日本とは違った習慣が待ち受けています。この国に帰ってくると、そんな自分が馬鹿らしくなってくることもあります(笑)。この国では、例えばショッピングカートなど、そこら辺に放ったらかしにすることに、ほとんど罪悪感を覚えないようになりました。

私の母は70歳を過ぎました。


日本人としての慎み深さを大事にし、我慢強く、でしゃばらない。人にはできるだけ迷惑をかけない、頼らない。私と違い、マナー本を読む必要のない、かなりのやまとなでしこタイプです。そんな完全古風な母が、この国での私の振る舞いを見たらがっかりするでしょう。でも、郷に入れば郷に従えです。

海外どこへ行っても、根本的な日本人としての心はいつまでも持っていたいですが、居住国にある程度染まることも大事ですよね。

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No 19 赤ワインをこぼす

先日の機内での出来事です。

サービスが一段落し、CAたちの食事時間となり、私も、“そろそろ食事でも・・・”とフォークに手を伸ばそうとしたその時、本国人CAに呼ばれました。

「お客様に飲物をこぼしてしまったの。通訳してくれない?」
「何をこぼしたの?」
「赤ワインよ・・・」
「えっ赤ワイン・・・!?」

赤ワイン、私は普段大好きでよく飲むのですが、機内ではかなり厄介な飲物です。誤ってお客様にこぼしてしまったら最後、すぐに拭いても、シミはなかなか取れません。

何年飛んでいても、手元が狂ってしまう時もあれば、急な揺れでこぼれてしまうこともあります。こればかりは、誰にでも起こりうることなので、赤ワインを扱う時には、特に気を引き締めています。

そのCAは、

「お客様、それほど怒ってらっしゃらないご様子だけど、英語をお話にならない方だから、一応、 あなた通訳お願い」

と言います。

“本当に怒ってらっしゃらないのかな・・・!?”

と内心疑いながら、お客様の席に伺う途中、近くのギャレーを通りかかりました。すると、そのズボンをゴシゴシ磨いている別のCAたちの姿が・・・。覗いてみると、誰もが一番こぼされたくない場所に、直径20cmくらいの大きな真っ赤な円が出来ているではありませんか。ソーダ水に塩を混ぜたものにつけながら歯ブラシで磨いて、すでに20分は過ぎたと言っている。しかし、シミは、あいかわらず目立っています。

聞いた話によると、事件は、食事サービスの最中に起きたそうです。

お客様が化粧室に行こうと、座席から立ち上がったものの、通路にはミールカートやドリンクカートが出されており、ふさがっています。 そこで、カートの脇を通っていただくため、タイ人CAが、カートを端に動かそうとしました。それと同時に、そのお客様も、「通らせて」と、カートを押したそうなのです。互いのタイミングが合わず、上に置いていた赤ワインのボトルが倒れて、お客様のズボンにかかってしまったという。どちらかといえば事故に近かったようです。

事情がどうであれ、お客様の真っ白な、オシャレなハーフパンツが、すでに真っ赤に染っていることに変わりありません。 代わりのはきものとして、ファーストクラス用のスウェットをお渡ししたとのことですが・・・。

チーフパーサーと、こぼしたCA、そして通訳の私が、そのお客様に謝罪、そして対処法のお話をしに伺いました。私たちが、「○○様、この度は・・・」と言い始めるとすぐに、

「一体どうしてくれんの?」

お客様の顔には、微笑が浮かんでいるのですが、完全に目が怒ってらっしゃいます。
“これのどこが、お客様はそれほど怒ってないっていうの!?”

そりゃあ、あんな場所に、あれほどの量の赤ワインをこぼされたら、(事故だと本国人CAは言っていますが)、誰でも怒るでしょう。

わが社の規定では、飲物などで、旅客の衣類を汚損しまった場合、主に、2つの対応法があります。機内免税品の中から、お好きな物を選んでいただくか(上限金額あり)、マイル(大体近距離線往復分程)を差し上げるかです。

「この後、仕事で大事な会議があるんだ。それなのに、こんな赤ワインのシミつけたズボンで行けないよね。今借りているこのパジャマみたいなスウェットで、会議に出ろっていうの?免税品とかマイルなんていらないし、とにかく何かはくものを準備しろよ」

と、パーサーに詰め寄るお客様

「私の部下の配慮が足りなかったために、お客様のお仕事に支障が出てしまうことに、大変申し訳なく思っております。大事な会議の前に、このような不快な思いをさせてしまい、心よりお詫び申し上げます。ただ、本当に申し訳ないのですが、この機内では、今お渡ししているそちらのスウェット以外にすぐにご用意できるズボンの準備がございません。お客様は預け荷物の中に、替えのお召しものはお持ちでいらっしゃいませんか?」

「ないね・・・」

「さようでございますか・・・、到着後すぐのターミナルビル内に免税店がございますが、そちらでは洋服を扱っておりませんし・・・」

「どうすんだよ。ワインこぼすことなんて、フライトでしょっちゅう起こることだろ。それなのに、替えの一つも用意がないなんてひどい会社だな・・・」

「大変申し訳ありません・・・」

「とにかく、何か準備しろよ」

“自分たちは何をして差し上げられることがあるのか・・・” このようなやりとりだけが続き、時間が過ぎていきました。お客様のお怒りもマックスになりつつあり、まずい雰囲気が・・・、とその時、タイ人の男性CAが近寄ってきました。

「僕、今回の日本ステイでズボンを買ったのですが、もしそれでよろしければ差し上げます。お客様の履いてらっしゃったものと同じようなハーフパンツです」

「なら、それ、はかせてもらうわ」

お客様が試着した結果、ぴったり!その新しいズボンをはいて降機していきました。
ちなみに赤ワインをこぼしたCAは、その男性CAに、後からズボン代を返したそうです。

実は、この後、近くに座っていらした他のお客様に話しかけられました。

「さっきのあのお客さん、いくらなんでもToo Muchだったね。機内で飲物こぼされることなんていくらでも起こりうることだって、本人も言っているじゃない。海外での大事な仕事の会議があるって時に、本当に替えのズボンの1着も持ってきていないのかね?しかも元々履いていたのが、白のハーフパンツでしょ。それ、会議で着る格好?」

「何が起きても自分で対処できるように替えの洋服の一つくらい持っておくのがビジネスマンでしょ。そんな準備もできてなくて、あなたたちだけのことを責めるなんて、日本のビジネスマンってそんな未熟な人が多かったっけ?」

それ聞き、正直少しだけ胸がすっきりしました。確かに私たち乗務員全員、大事なお洋服を赤ワインでよごしてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。しかし、こちら側が何を言ってもズボンの替えを迫るそのお客様を目の前に、チーフパーサーも私たち乗務員も徐々に途方に暮れ始めていたのです。

オレンジジュースを頭からかぶっても、

「大丈夫。飛行機って狭いし揺れるからそんなこともあるよね。大丈夫だよ」


と理解を示してくださる方がいらっしゃるかと思えば、水が数滴、顔にかかってしまったことに怒鳴りつけるお客様もいらっしゃいます。

本国人CAの間で、日本人旅客は普段は大人しいけれども、一度怒らせてしまうと大変という噂は昔からあるようです。

今回のことがきっかけで、日本人は顔が笑っていても、実はとっても怒っていることがあるのだ、と新しい情報が本国人たちの間で広まっていくでしょう。

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No 20 虫対策の巻

タイで暮らしていると、日本に住んでいた頃よりも、虫に悩まされる機会が増えたのを感じます。

私は、今のコンドミニアムに暮らして5年になりますが、入居する決め手となったのは新築だったからです。 新しい建物なので、虫は出ないだろうと安心して過ごしていたら、いつの間にか、アリが部屋の隅々で列を作りだしました。

ベッドで寝ている時に、アリが体に這ってきて熟睡できない夜もありました。


虫退治専用のスプレーや薬品はないものかと、近所のスーパーに駈け込んでも、当たり前ですが、製品には現地の言葉でしか説明が書いてありません。現地語の読み書きができないので、はっきりした使用用途がわからないまま、成分の強い殺虫スプレー類を使うのも怖い。

そこで、フライトで日本に飛んだ時に買って帰ることにしました。今では、“アリの巣コロリ”やその他ハエ・蚊よけも、ほとんど日本のものを使っています。私の部屋は、“アリの巣コロリ”を置いたらすぐに効果が出ました。


それで効果があるのは、まだラッキーなほうらしく、何をしてもアリがいなくなってくれないと嘆いている友人もいます。彼女は、私のところよりもかなり高級で、しっかりとしたコンドミニアムに暮らしているというのに・・・。

ところで、ドリアンは果物の王様として有名ですが、果物の女王は何かご存知でしょうか。 この国では、旬になるとスーパーや露店で山盛りに売られている果物マンゴスチンです。日本でも、マンゴスチンソープが一昔前に流行りました。見た目が可愛く、独特な味が美味しい、とてもすてきな果物です。

でも実は、とても曲者なのです。(写真マンゴスチン)


問題は、緑のへたの部分で、その隙間に、アリがたくさん入り込んでいることがよくあるのです。私が、この国に暮らしだした頃、街を散策していると、東南アジアの代名詞ともいえる南国フルーツ、その中でも、特に人気のマンゴスチンが露店で積み上げられていました。その存在感は抜群です。早速20個ほど買い込み、冷蔵庫で冷やしていました。すると・・・、

しばらくしたら冷蔵庫のまわりに、アリたちがウロウロしていたのです。後々、

「食べる前に水に漬けて、アリ退治をしないと駄目だよ」

とタイ人から教えてもらいました。

それ以来、マンゴスチンを買って帰った時には、まず大きめの鍋かボウルに水を入れ、マンゴスチンを漬けます。しばらく待つと、緑のへたの部分に隠れていたアリやハエが、水にどんどん浮いてきます。

数10分おきに、何度か新しい水に入れ替えて漬け続けます。合計で、最低でも1時間は漬けるでしょうか。何度か繰り返し、やっと虫が浮いてこなくなれば、最後に、野菜・果物用の洗剤で農薬と虫を一緒に洗い流して、密封袋にマンゴスチンを入れて冷蔵庫にしまいます。

そこまでしても、後から食べる時には、まだ隠れていたアリが数匹出てくることもあります。マンゴスチンは、女心をくすぐる可愛い果物なのに、実はこんなに手間がかかるのです。オフの日や時間に余裕がある時でないと、なかなか買う気にはなりません。

虫の話からちょっとずれますが・・・、アリ以外に、家でたまに見るのは「ヤモリ」です。ヤモリは漢字で「守宮」と書きます。つい「家守」と書きたくなりますが・・・。
そのヤモリは、ちゃんと窓を閉め切っていても、どうやら排水溝から入って来る様子です。


ある日、家でくつろいでいると、突然、天井から足の上に何かが落ちてきました。驚いて見てみると、なんとそれはヤモリだったということもありました。


最初のうちは、ヤモリに慣れず、部屋の中で出くわすたびに、おどろいて神経をすり減らしていました。しかしある時、フライト前にいたヤモリが、数日後にフライトから帰ってきた時に、まだ同じ場所にいたことがありました。愛着が湧き、「ただいま~」と声をかけている自分がいました(笑)。今では、たまに見かけても、

「ヤモリちゃん、私の家にホームステイしているってことでいいか・・・」

と、自分の中で解決済みです(笑)。

虫関係といえば、この国の人たちとは違うことがあります。


それは蚊です。


体質の関係なのか、私は小さい頃から大人になった今でも、本当によく蚊に刺されます。

ここは常夏の国、蚊が完全にいなくなる季節というのはありません。この国に暮らしだしてから、私の日常生活に蚊対策が入りました。朝起きて一番にすることといえば、水を飲むことではありません。まずルームタイプ用の蚊よけスプレーを部屋中にふりかけます。

換気で窓を開ける時は、必ず蚊取り線香をつけます。出かける前には、ボディ用の虫よけスプレーを体にふりかけ、そのままスプレーはカバンに入れて行きます。この徹底した対策のおかげで、最近はあまり刺されなくなりました。蚊対策は、歯を磨くといったように、今となっては生活の一部です。

そんな私に比べて、この国の人たちは、蚊に全然刺されないのです。嘘か本当か知りませんが、パクチーをよく食すから刺されないという噂も聞いたことがあります(笑)。

私が刺されてかゆがっているのを見て、

「蚊アレルギーなの?」

と聞かれたこともあります。人は蚊に刺されるものというのが私の認識でした。でも、こちらの国の人たちはそうでもないのです。

また、この国の人たちは、蚊が目の前を飛んでいても、手で叩いて殺すことはしません。

実は、彼らは敬虔な仏教徒です。その教えを忠実に守っているので、虫であってもなるべく殺生はしないのです。ゴキブリでさえも殺すことはよくないと言います。スーパーでは、殺虫剤のような物はちらほら見かけますが、本国人いわく、ほとんどのそれは、殺すためのものではなく、自分から遠くに追いやるためのものだとのことでした。

この国では、蚊に刺されてかゆい辛さを分かってもらえない上に、それを目の前で殺せないのです。


ある日、本国人と遊んでいた時、蚊がまわりに飛んできました。本国人の目の前で、つい手でパチンと一撃してしまいました。

「殺しちゃってごめん。でも私蚊アレルギーだから・・・」

と謝る私なのでした。

虫が暮らしやすい夏が、一年中続くこの国では、自分を守るため、対策はこれからも欠かせません。その対策さえちゃんとしていれば、快適に過ごせます。


ちょうど今は雨季です。


外から蛙の合唱が聞こえています。これも風情と感じるほど東南アジアの国に馴染めれば、かなり快適な生活が送れるでしょう。

 

塾長より

ヤモリは、人間に害を与えることなく、蚊や蛾、ゴキブリを捕食してくれ、家を守ってくれると言われています。

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No 21 笑顔で陳謝 真顔で陳謝

私の暮らすこのタイは、世界中で微笑みの国と言われており、人々がいつもニコニコ優しいというイメージが根強くあります。確かに諸外国に比べると、愛想がよいのは事実で、この国の強みだと言えるでしょう。しかし、この愛想のよさや微笑みが、機内の日本人旅客を相手に問題が起きてしまうこともあるのです。

ある日の機内、食事サービスを行なっている時でした。


日本人旅客がお怒りだから通訳を頼むと、私にお呼びがかかりました。“特に深刻なことじゃないといいな・・・”。そう思いながらお席に伺うと、待っていたのは年配の上品な女性でした。

「あのね、私が前もって頼んでいたものと違うメニューの食事が出されたの。私はアレルギーがあるから特別食をオーダーしていたのよ。そしたら乗務員さん、他の乗客の方に間違えてお出ししてしまったって、笑っておっしゃったの。次にパーサーも謝りに来てくださりました。でも、こう申しちゃ悪いですけど、皆さんヘラヘラ笑って済まそうとしてらっしゃるのかしら? 間違えてしまったのは仕方ないとは思うけど、そういう謝罪態度はちょっと受け入れ難いわ」

“笑ってしまったのか…!”

実は、この国では、何か粗相をして謝罪する時には、“笑顔で謝る”のが習慣なのです。
ヘラヘラしているつもりはもちろんありません。


現に、私がお客様の話を伺っている間、パーサーたちはファーストクラスに行き、代わりに召し上がっていただけそうなものを必死で準備していたところでした。皆申し訳ないという気持ちはあり、笑って許してもらおうなんて言うつもりはありません。


けれど、深刻な表情で謝ることがほとんどの日本人にとっては、笑顔で謝罪されると癇に障ることもあるのでしょう。今回のお客様のように余計に気分を害し、

「何を笑っているんですか。本当に謝る気があるんですか!」

という日本人旅客が以前に何度かいらっしゃいました。せっかく裏側ではなんとかしようと頑張っているのに、表情のために誤解されるのです。今となっては、

「日本人旅客に何か粗相をして謝罪をする時には、笑ってはいけませんよ」

と、日本便フライト前のミーティングでチーフパーサーが伝えることがしばしばあります。タイの新人CAは、

「へ~そうなんだ~」

といった様子で聞いています。

ほとんどのタイ人CAたちは、日本人に対して好意的です。日本人旅客の傾向や好むサービスの形態を、皆が勉強してくれていることはとてもありがたいことだと思います。

しかし、私自身、入社してからずっと気になることが一つあります。それは彼らの聞き返し方です。相手が話したことが聞き取れず、もう一度聞き返す時、この国の人たちは思い切り顔を歪めて、

「ああ!?」

と言うことがよくあります。おそらく日本で言う、「えっ?なんて?」という感じでしょうか。

笑って謝罪することに関してのクレームはよくあるのに、この相槌の打ち方でお客様を怒らせたという話を一度も聞いたことがないのが不思議なくらいです。

入社当初は、この「ああ!?」に驚き、私がいくら新入社員で年下だからってそれはないだろう!と憤慨していたくらいです。しかし実は、これはこの国の人たちにとっては全く悪気もなく、普通の聞き方なのです。

空港への通勤時、私は毎回タクシーを電話で呼ぶのですが…、

「午後7時に迎えに来ていただけますか?」

「ああ!?何時って?」

また、ある時のカフェでのオーダー時、

「ホットのカフェオレをお願いします」

店員さんは思いきり顔を歪めて

「ああ!?」

です。もう買わずに帰ろうかと思いました(笑)。

飛行中に、空き時間もあります。サービス精神がたっぷりで、モデル級の美しいタイ人CAと楽しくお喋りしていました。 “この人、CAの鏡のようだわ~”と見惚れながら、私の実家について会話していた時です。

「あなたは、日本のご実家にはどのくらいの頻度で帰っているの?」

「大体少なくとも月1回は帰っていますよ。空港からそんなに遠くないですし~」

「あら、それだとよかったわね。空港からはどうやって帰るの?」

「空港バスを利用することがほとんどね」

「ああ!?」

この一瞬だけ、美しい顔が完全に歪みます。幻でも見たのかなと思ってしまいそうになるほどです。


「いや、だからバスで帰ります」

「なるほどね~」

入社してすぐ、まだこの国の人たちの習慣にそれほど慣れていなかった頃のことです。
1人のタイ人男性乗務員が食事サービス中、日本人旅客にメニューのチョイスを尋ねていた時です。聞きづらかったようで、彼は顔を大きく歪め、

「ああ!?」

と聞いていました。それを目撃したまだ若かった私は、

「日本のお客様に、そんな聞き方するのはすごく失礼よ!」

と注意してしまいました。するとその男性乗務員はすねてしまい、その後フライト中ずっと口をきいてくれませんでした。日本人CAの間では、

「あの聞き返し方は、ほんと日本人的には受け入れられないよね」

とグチり合うことはあるものの、注意されることが大嫌いだというこの国の文化を、皆よく知っているので、誰も指摘しません。

できることならこの聞き返し方をどうにかしてほしいと思うのですが、この国の習慣であるので仕方ありません。ただサービス業だったら、それぞれの乗客の文化に合わせることも大事でもありますよね。


でも以前注意して失敗したしなぁと思いつつ、気の小さい私は何も言えずにいるのでした。

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No 22 女性は大変

年も新しくなり、そろそろ本格的に貯蓄をしようと意気込んでいる私は、ここ数ヶ月の出費を見直してみました。

食費や交通費はもちろんのこと、化粧品など美容関係の出費が多くありました。 定期的にスパや高級エステに通うわけではありません。 それでも、毎月のネイルや、まつ毛エクステ代に加え、ファンデーションやパックなどのコスメ代を振り返ってみるとなかなかの額になります。 なるべく毎日飲むようにしているコラーゲンやビタミン系のサプリメント、デトックスに効くお茶等も安くはありません。

“お洒落は中からして初めて本当の女子力が上がる!”

という高い意識のもと、決して安くはない下着を頻繁に新調する友人もいます。私も見習いたいものですが・・・。とにかく女性は大変だなと思います。

最近の、私のぜいたくな出費は、脱毛処理のためのサロン代です。財布には厳しいですが、仕方がないと割り切っています。日本の女性としては、眉毛はもちろんのこと、腕や足もできるだけつるつるにしたいと願うものですよね。

ところが、私の住むこの国の女性たちを観察していると、ほとんどの人たちが腕や足のケアをしていません。入社当時、メイクはばっちり、髪型も決まっているタイ人CAたちの美しさによく圧倒されました。

しかしそれと同時に、彼女たちの腕や足に目をやると・・・、まったく手入れがされていないので、顔とのギャップにびっくりさせられました。街で歩いている女性を見ていても、腕や足はほとんど手入れしていません。

欧米人のように、体毛も金髪だと、まだ違うのでしょうが、彼らは同じアジア人。黒々しているので、普通に目立ちます。脱毛をするという習慣がほとんどないのでしょうか。


世界的に有名なまつ毛サロンが、ここ数年の間に多く進出してきました。おそらくこの国では、女優やモデルなどセレブリティなど一握りの人たちしか通っていないでしょう。日本の女性は脱毛サロンに通うなど、なるべくムダ毛の少ない体をめざしているのに比べ、これはおもしろい発見でした。

そうかと思えば、この国の女性たちは、とにかく色白になることに憧れます。そのための高級美白サプリメントを、惜しまず日本でも買い込んでいます。先日、日本の美人女優にそっくりのタイ人CAと乗務しました。30歳を過ぎた彼女は、今も、相手がいないらしく独身だと言っています。

「あなたなら絶対にモテるでしょう」

といったところ、

「なに言っているのよ。私、全然モテないわよ。この国の男は、色白の女性のほうが好きなんだから・・・」

彼女は肌が浅黒いほうでした。それでも二度見はするくらいの美貌なのに・・・。

彼女曰く、この国の多くの男性は、顔のつくりよりも、肌の色が白いかどうかを気にするのだそうです。どれだけ美しい顔立ちでも、色が浅黒ければポイントが下がるのだとか。いままで彼女がつき合ってきた人たちは、ほとんど西洋人だったとのことでした。

美容関連の出費の話に戻りますが、美容院代というものもありますね。「日本人って髪の毛がきれいな人多いよね」と、タイ人CAによく言われます。


日本女性は、2、3ヶ月に1度のペースで美容院に通う人がほとんどだと思います。そりゃあ髪の毛のカラーもきれいだし、毛先も乱れている人のほうが少ないでしょう。

それに比べ、こちらの国では、多くの女性は自分でヘアカラーをしているのです。タイ人CAに関していえば、そのヘアカラーの素を日本から買って帰っています。日本の市販の髪染め製品は、世界で売られている物の中ではレベルが高いと聞きますが・・・。

それでも美容院でプロの手で施してもらうカラーとは違うはずです。私は日本ステイの時に、美容院に行き、カットとヘアカラーをしてもらっています。そのためか、しょっちゅう本国人に褒められます。

「なんでそんなに髪の毛がきれいなの? なにが髪の毛に効くの?」

とタイの友人に聞かれ、日本の乾燥わかめを勧めたこともありました。(本当にわかめが髪の毛によいのかはわかりませんが・・・)

また、肌のケアでも違いがあります。


こちらの国の人たちは、とにかく肌のテカりが嫌いなので、乾燥が大敵の機内でも脂取り紙をひんぱんに使用している姿を見ます。テカり防止のため白粉を塗っている男性乗務員もちらほらいます。


とにかく常夏の国ということもあり、乾燥とは無縁、にぶいテカりという感じで、さっぱり系のコスメが人気です。


日本では隠れ乾燥肌や混合肌など、単純に脂性肌、乾燥肌、という区切りではなく、様々な肌質に合う化粧品が売られていますが、この国ではとにかく「テカり防止」のコスメばかりを目にします。この国でのNGポイントは、

「ぽっちゃり、色黒、テカり・・・」

なのでしょうか。

女性は、様々な美容関連の出費が毎月あります。それはどの国でも変わりはないことでしょう。しかし、何にお金をかけるか、どのように自分の外見を磨くか、どのような外見に憧れるのか、日本とこの国の人たちは、同じアジアといえど、まだ違う部分が数多くあるようです。

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No 23 コーヒーがぬるい

穏やかなある日の機内、一人の日本人乗客から声をかけられました。

「あの~すみません。さっきをホットコーヒーお願いして持ってきてもらったんですけど、いくらなんでもちょっとぬるいんですよ。ホットはないんですか?」

そう聞かれて、旅客が手に持っているペーパーカップの中を覗いてみると、見るからにぬるそうな、時間の経ったようなコーヒーが入っていました。

実は、本国人CAは、コーヒーや日本茶が多少ぬるくとも、そのままお客様に提供しまうことがよくあるのです。

うちの航空会社では、コーヒーを離陸後、専用マシーンを使って豆から落とします。淹れたての時はギャレー内にとてもよい香りが漂います。エコノミークラスでも、落としたてのコーヒーが飲めるという点は、うちの会社の強みの一つだと聞いたこともあります。

もちろんそのコーヒーマシーンは一杯用ではなく、ポット2個分程度の大型なので、全体の食事サービスの時に使用します。当然、落としたては美味しいのですが、保温機能がほとんどないので、しばらくするとすぐ冷めてしまいます。その時間の経ったコーヒーを、この日本人乗客にもお渡ししてしまったのでしょう。

本来は、機内には一人用の粉末インスタントコーヒーが搭載されているので、食事サービス時以外はそれをサービスしています。それにもかかわらず、時間が経ったコーヒーをお出しするのは、一体なぜなのか、そんなに面倒くさいことなのか?と最初のうちはよく不思議でした。

ただ最近、これは本国人CAたちの配慮が足りないというより、この国の気候が関係しているのではないかと気づきました。というのも、ここは常夏の国なので、普段、人々はほとんど温かい飲物を口にしません。

コーヒー自体は人気ですが、いつもアイスコーヒーです。それにミルクとシロップをたっぷり入れて飲んでいます。温かい飲物の必要性や、コーヒーの鮮度へのこだわりがあまりないのでしょう。だから、ついぬるいものをお出ししてしまう本国人CAが多いのだという結論にたどりついたのです。

もう一つ驚いたこと、それはこの国ではビールに氷を入れて飲む習慣です。

とにかく毎日暑いので、屋外ビアガーデンで飲んでいるとすぐにぬるくなります。そのためにビールをオーダーすると、必ず氷のバケットと一緒に持ってきてくれます。ビールが冷えていないなら、氷を入れたらよいという考えがあるのか、機内で乗客にお出しする際、缶ビール自体が冷えているかどうか気にしている本国人CAはあまりいません。

私はビールが大好きです。


以前ビールの本場ヨーロッパのチェコへ旅行に行った際、ビールは常温のまま出されました。日本のキンキンに冷えたビールを想像して行ったので衝撃でした。確かに冷たすぎると風味が減るので、何でもかんでも冷やせばよいというものではないのでしょう。

しかし、やはり日本人の私としては、ビールはできる限り冷やしてお客様にお出ししたいです。

出発前の飲物準備の時、担当の本国人CAが冷やし忘れていないか、いつも密かに目を光らせてチェックしている私です。またある日の静まり返った深夜便で、一人のタイ人乗客に呼ばれました。

機内食だけでは足りず、他の種類のものを召し上がりたいとのご要望を受けました。うちの機内には、乗務員用に地元のカップ麺が搭載されています。乗客の安全を守るのが一番の仕事なので、乗務員たちがフライト中にダイエットのために食事を抜かすのは禁止です。お腹が空いて力が出なければ、いざという緊急時に乗客を助けることができないからです。

ただいくら仕事といっても、CAも毎回機内食ばかり食べていたら飽きるのも当然です。宗教上の理由で牛肉や豚肉が食べられないというCAもいます。そういう時のためにも、カップ麺が搭載されているのです。たまに乗客の中でも宗教上の理由で通常の機内食が食べられないなどの事情があると、そのカップ麺を提供することもあります。

そのお腹を空かせたタイ人乗客にも、今回、特別に差し上げることにしました。

日本のカップ麺だとお湯を入れてから3分や5分待ってから食べると決まっていますよね。

麺が硬すぎたり、逆にのびてしまったりするのが許せない日本人としては、とても大事なことです。カップの中に熱湯を注ぎ、3分ほど経つ前にそのお客様のもとへお持ちしようとしたその時、本国人CAに止められました。

「ちょっと待って!今お席にお持ちしたら、その匂いで他のお客様が起きてしまうから、もう少しあとで持って行きましょう!あとは私がするから任せて・・・」

とのこと。相手はタイ人乗客だし、タイ人CAに任せるのが一番だと判断し託すことにしました。ところが、それから10分経過、20分経過・・・、いつまでたってもそカップ麺をお客様のもとへ持っていかないのです。

「まだ持って行かないの?お湯、とっくの前に入れたんだけど!?」

と言っても

「大丈夫、大丈夫。もうすぐ持って行くから・・・」

と軽い返事のみ。

最終的に、私がお湯を注いでから40分ほど経った頃、ついにお客様のところにカップ麺を持っていきました。あまりにも気の毒になり、様子を見にお客様のもとへ行くと、なんとそのカップ麺は完食されていました。

間違いなく冷めているし、麺はのびているし・・・。


この国の人は、そこは別に気にしないのだそうです。確かに、この国のカップ麺は日本のもののように麺にコシがあるタイプとは違います。

スープも、とにかく辛くて濃い。要するに、冷めても美味しいのです。

そもそも、常夏のこの国の料理は、味がとにかく「辛い」「甘い」「塩辛い」「濃い」のオンパレードです。大体の料理が、多少冷めても問題なく美味しいのです。日本のように繊細な料理とは違い、多少麺がのびたり、料理が冷めたりしたところで味は変わらない。アツアツが大事、麺はのびたらもうダメだという概念がないのでしょう。

最初のうちは、どうして料理が冷めても平気なのか、ホットな飲物やコーヒーがぬるくても平気なのか、ビールを冷やさないのか、本当に不思議でした。

しかし、しばらく住むうちに、この国の食べ物や気候を考えたら、なんとなく理解できるようになりました。日本人は、でき立てアツアツを好むため、急いで食べる傾向にありますが、この国の人たちは、麺であろうが何であろうがのんびり食事しています。冷めた料理をテーブルの上に残しながら、ちょっとずつゆっくりお喋りながら食べている姿をよく見ます。

こういうこだわりが少なくのんびりしたところが、この国の人たちの穏やかな性格にもつながっているのでしょうか。

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No 24 かぶりつかない

世界中どの国にも、観光で訪れるだけではわからないような、住んでみて初めて知るマナーがあると思います。例えば日本だとエスカレーターは関西では右側、関東では左側に並ぶ、といったような感じでしょうか。私の暮らすこのタイの場合、以前紹介した、“飲物はストローで飲むのが”普通”を筆頭に、他にもちらほらあります。


そのうちの一つが、“食べ物を、直接手にとってかぶりつかない”というマナーです。

これを最初に知るきっかけになったのは、入社してすぐの頃、機内での休憩時間中でした。サービスが一段落してCAたち皆でギャレーに集まり食事を取っていた時のことです。本国人CAが、日本ステイ中に買った大福をスーツケースから取り出し、機内用のお皿に乗せ始めました。次にナイフとフォークを準備して、その大福を綺麗に切り分けながら食べたのです。

日本人の私にとって、大福は手に持ってかぶりつくものだったので、海外の人がそんな風に食べる姿を初めて見て、つい笑ってしまいました。そんな笑う私を見て、彼女は、

「何かおかしい?」

と聞いてきました。

「ううん、ごめん、日本では大体手でかぶりついて食べるものなのに、あなたはとても綺麗に食べていたからおもしろいなと思っただけだよ」

と説明すると、

「そういうことね。今、仕事中で手は清潔じゃないから直接大福を持ちたくないし、それにそもそも この国ではかぶりつくのはマナー違反なのよ」

と教えてもらいました。“和菓子の本来の食べ方を知らないだけなのだろう”という程度に考え、微笑ましく見ていたつもりが、なるほど!と勉強になりました。

この国のCAたちは、特に機内では、マナーと衛生面、この両方の理由で、食べものを直接手でつかむことはほとんどありません。さっと手でつかんで食べたいもの、例えば、みかんやいちごなどの果物や菓子パンまで、フォークやナイフを使って食べます。

バナナも皮を剥きながらかぶりつけばいいものを、縦半分に皮を剥いてフォークで食べています。今となっては私もそれに習っていますが、最初の頃は違和感たっぷりでした(笑)。

この“かぶりつかない”習慣は、機内だけの話に限らず、人々の日常生活でも完全に馴染んでいます。初めてこの国でケンタッキーに入った時には驚きました。

客のほとんどが、あのケンタッキーのフライドチキンを、フォークとスプーンで食べていたのです(スプーンをナイフ代わりにして切る)。お上品に一部の女性が、というのではなく、男性も含めほとんどのお客さんがそうしていました。さらに驚くことにこの国のケンタッキーには、ご飯とフライドチキンのセットメニューがあります。一つの皿にチキンとお米がのせられます。

この国の人たちの主食は、日本同様お米です。お米大国ならではだとは思います。確かに、フォークとスプーンでフライドチキンを食べるのと同時に、横に添えられているご飯を食べても違和感は少ないですね。以前、お世話になっている本国人家族のお宅にお呼ばれし、お昼ご飯をご馳走していただいたことがありました。

そのおかずの中に、手羽元のから揚げがありました。日本でもビールのおつまみの定番メニューです。私はいつものように手に取って食べようとしましたが、自分以外の人たちは小さな手羽元も、みんな丁寧にフォークとスプーンを使って食べていました。正直、

「面倒くさいな~」

と思いましたが(笑)、やはりホストを見習って同じようにして食べました。

すると、手でつかんで食べるのとは何かが違うのです。日本で手羽元を手でつまんで食べていた時は、ビールのおつまみという感覚でした。

しかしこの国で、フォーク類で小さく刻みながら、ご飯を同時に食べるようになって、手羽元とお米との相性のよさを発見しました。ケンタッキーでライス付きのメニューが流行るのも納得です。

このかぶりつかない習慣は、この国に暮らして長くなった今、私にとっても自然なことになりました。日本ステイ中に無意識にこのかぶりつかないマナーを実行していると、

「上品だね」

なんて言われたこともあります(笑)。

最近では、国際化が進んでいることが理由なのか、この国でも伝統的なマナーが以前ほど守られていないそうです。直接食べ物にかぶりつくことがよくないとされているので、ハンバーガーやドーナツは、元々はあまり人気がなかったということは理解できます。

しかし、ここ数年の間に多くのその類のお店が街中に進出してきました。そして、何の抵抗もなくかぶりついている本国人の若者たちを目にする機会が増えてきています。

「最近は西洋の文化も入ってきているし、この国特有の昔からあるマナーを守る人が減ってきている。でも私は若い女の子たちの憧れの職業であるCAになったのだから、所作が美しい女性であり続けたい」

と言っていた本国人CAのことを思い出します。

彼女はとてもステキで美しく素晴らしい人です。私も、この国にいる以上は、ちゃんと彼女を見習いたいと思っているのですが、実は私は昔からハンバーガーが大好きなのです。


このすてきな本国人CAの友人に、私のこの姿を見られたら下品と思われるのかな?彼女は普段ハンバーガーを食べたりはしないのかな?それともそれもナイフとフォークで食べるのかな?などと考えながらも、ハンバーガーはやめられません。

この国での、ほとんどのマナーは守っているつもりですが、ハンバーガーはやっぱり手でつかんでかぶりつくのが一番美味しいから仕方ない!と開き直りながら、若者たちにまじってかぶりついています。

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No 25 読書よりおしゃべり

趣味の話になると、日本では「読書」と答える人が多いですね。

私もそのうちの一人です。

ゆっくり読書時間を確保できると、自分の生活にゆとりを感じ、それだけで満足できるほどです。日本の友人とは、「あの本読んだ?どうだった?借りていい?」というような会話もたまにあります。

ところがこの国に暮らし始めて7年、今まで、読書が趣味だというタイの若い人に、出会うことはほとんどありませんでした。この国では、人々は本をあまり読まないらしく、読書が国民全体に根づいていないようなのです。

移動中や待ち時間などに、現地の人が手にしているのは、本ではなスマートフォンやタブレットです。日本でも、以前に比べると、読書する人が減ったとは言われていますが、それでもこの国に比べると断然多い感じがします。

この国では、例えば、電車の中で本を読んでいる人はまずいません。1車両に一人いれば多い方です。 電車だけでなく、カフェや公園、会社の食堂、どこを見渡しても本を読んで時間を過ごしている人を見ることはほとんどありません。

飛行機の中での乗客の過ごし方を見ていても同じです。

最近は、機内設備が充実し、パーソナルテレビが設置されています。機内での過ごし方として、映画を観ることが全体的に主流になっていますが、それでも読書をする日本人・西洋人旅客を今でも多く見かけます。それに対し、本国人旅客で、機内に用意している新聞以外で、読み物をしている人はまずいません。

以前、ヨーロッパ旅行した時、欧州の航空会社を利用したことがあります。 深夜便で、寝ている乗客がほとんどの静かなフライトでした。 そんな中、化粧室に行こうと機内を歩いていたら、Crewシートに座っているCAさんが、本を読んでいるのを見つけました。実際のところは知りませんが、その航空会社では読書が認められているのでしょう。

私の会社では、CAたちは乗務中、機内での空き時間に読書をすることは禁止されています。スマホを触るのも、認められていません。では、わが航空会社のCAたちはどうやって長い深夜便の空き時間を乗り越えるのかというと、皆、ギャレーに集まってお喋りをして過ごします。

この国の人たちは、いろいろと情報通です。

本も読まないのになぜかというと、とにかく一人で行動をせず、常に誰かとつるんでおしゃべりしているからではないしょうか。個人行動を好む私も、さすがの機内では、たまにおしゃべりの輪に入ります。端から見ると、ただペチャクチャ世間話をしているように見えるのですが(笑)、意外と貴重な情報を仕入れられることもあります。


たまに、会話がヒートアップ皆の熱が入り、その声がうるさくて眠れないと乗客からクレームが来ることもあるほどですが・・・。そういうわけで、本国人CAたちは会社のこと、ファッションや政治のこと、たいてい何に関しても詳しいのです。

ところで、機内で、私がお手伝いをするのは、もちろん日本旅客だけではありません。 以前の日本線では、日本人旅客が9割を占めていました。 しかし、この数年タイ人旅客の割合もどんどん上がってきています。タイ人旅客に日本入国カードを書くのを手伝ってほしいと頼まれる機会が増えました。

そこで知ったのは、自国の言葉でも、字が読めない、書けない人が多くいるのだということです。実際、世界全体を見ると日本ほど識字率が高い国はなかなかないと聞きます。

この国では、都市部での生活は日本以上に便利です。それでも国全体としてみると、まだ発展余地が多々あります。字の読み書きの教育を受けていない人の方が圧倒的に多いのです。

この国に暮らし始めてすぐの頃、タクシーを利用する時に、地図や場所の説明が書かれた紙を運転手に見せたことがありましたが、ほとんどの運転手が読むことができませんでした。

最初のうちは、ただその場所が分からないだけなのだと思っていました。 しかし、本当は、字を読むことができなかったのかもしれないと今では思います。人々が書けて読めるというのは、世界では当たり前ではないようです。そういう現実があるため、本を読むことが根づいていないのかもしれません。

正直に言うと、この国に暮らし始めて、最初のうちは、「普段、本を読まないなんて、勤勉な人が少ないのかな」なんて思ったこともありました。しかし、国の歴史や背景、人々がおかれている環境を改めて考えてみると、日本で暮し育ってきた自分とは違う生き方があるのは当然なのだと思うようになりました。

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No 26 正装とは・・・

この国に暮らしだして8年目を迎えました。日本の 同年代の女性たちからは、かなり離れた生活をしているなぁと感じる日々です。

それでも一応、日本Stay中、暇さえあれば雑誌のチェックはしています。その中でよく特集されているのが、職場でのファッション編です。確かに街中や電車でも、通勤・帰宅時であろう女性たちをよく見かけますが、きれいにお洒落している人が多くて、いつも見惚れてしまいます。

私の場合、職場は飛行機の中で、制服が支給されます。空港で着替えるのではなく、家から制服のまま出勤しています。

まわりの人からは、仕事の時は、常にヘアスタイルはアップにし、徹夜のフライトでも、メイクはばっちり(要するに深夜に厚化粧)しないといけないので「CAさんって大変だね」とよく言われます。

私も女性として一、応お洒落に興味はありますが、それでも毎日の服装を選ぶ手間を考えたら、制服があるこの仕事は、ある意味ラッキーだなと思っているのです。

そんな、普段は機内が職場の私も、街中にある本社や訓練センターに出向くことがあります。有給の申請や航空券購入などの私用から、非常時訓練や機内サービスのブラッシュアップ受講のためです。

その時は、制服ではなく私服なのですが、正装(Business Attire)をするようにと会社で決められています。これはどこの航空会社も同じだと思うのですが、CAたちは、飛行機の中だけでなくオフィスに出向く際も、ちゃんとした身なりをするようにと言われます。

 

出典 ANNGLE

 

では、その正装とはどんなものかと考えると、スーツや襟付のシャツに膝丈のスカート、ストッキングは必須で、足元はパンプス、といったところですよね。清楚と言えば清楚なのですが、どうしても地味になってしまうのも確かです。本国人CAたちと一緒に訓練を受けることがありますが、日本人と本国人は、服装ですぐに違いが判ります。
 

彼女たちのファッションは、正装といってもとてもカラフルで個性的です。派手好きのこの国では、外見が華やかであればあるほど賞賛されます。さすがに肩出しファッションをして訓練を受けに来ている乗務員を見たことはありません。

しかし、上下真っ赤なスーツや、大きな柄が全体についたワンピース、10センチ以上はあるヒールを履いてきても、注意はされません。また膝上10センチ以上のスカートも会社の許容範囲です。


ミニスカートやピンヒールはOKだけど、ジーンズや七分丈のパンツはダメ。派手な柄や色はよいけど、レギンスはNG。厳しいような、緩いような・・・。正装の基準がこの国特有で、入社当時はどんな格好をしたらよいのか分からなくなることが、たまにありました。

プライベートで飛行機に乗る時にも、ちゃんとした身なりで搭乗するようにと、一応規則があります。しかし、本国人CAがプライベートで乗る時、かなりの頻度でジーンズ姿を見かけます。最初の訓練で厳しく言われたはずなのですが、規則を真面目に守っているのは日本人乗務員くらいのような気がします。

この国では、上司であっても、自分が嫌われるのを避けるためか、気を使ってあまり部下を叱責することがありません。そういう国民性のためか、ちょっとくらい規則を守らなくてもすぐに注意されることがないので、

「まぁいいか」

となってしまうのでしょう。

この国で生活していくには、開き直った者の勝ちみたいなところがある気がします。
日本人が真面目過ぎるのでしょうか?

日本人は、大体どこにいても、皆おしゃれでで小ぎれいにしているなといつも思います。遠い旅先の国際空港にいても、大体日本人はすぐにわかります。自分を含め、日本女性は寒がりの人が多いので、他の国の人たちに比べ、多く着込んでいるのも特徴の一つですが・・・。

原宿など日本の若者の個性的なファッションが、世界でも有名で注目されていますが、日本国内全体で見ればそれはほんの一部。通常は、突飛なファッションをしている人はそんなに見ませんよね。

私は、年齢的には30歳を数年前に通り越した大人の女性ではありますが、今もカジュアルな格好が大好きです。

「この服すごくタイプだけど、日本では着る勇気ないかも・・・」

という服は、本国での休みの日専用として購入します。

日本だと、年齢に見合わない服装をしたらすぐに浮きますが、この国では気になりません。街を歩いている人たちが日本ほど洗練されていないというのもありますし、人々が個性的でもっと自由な感じだからです。

日本的価値観で言うと、

「露出しすぎかな?」

とか、

「年齢の割にスカートの丈が短いかな?」

と不安になりそうなファッションも、この国や欧米では誰も気にしないので、色々なファッションが楽しめます。

職場では決められた制服を規則通りにきっちり着る。本国でのプライベート時には、まわりの目をあまり気にせず、純粋に好きなファッションをする。日本ステイ中には、年相応の大人服も楽しむ。


本国と日本との往復で、季節や食事の違いだけでなく、ファッションも色々楽しめるこの海外生活は、まだやめられそうにありません。

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No 27 度胸ある人たち

最近は、ホテルやマンションでもオートロックが増えてきているのではないでしょうか。出かける時、そのままドアを閉めるだけで自動的にロックされるという仕組みです。私が借りているこのマンションンも、個々の玄関ドアのすべてがそうなっています。

オートロックは、鍵のかけ忘れの心配がなく安全ですが、逆に、もしその鍵を室内に置いたまま出かけてしまったら面倒です。あわて者の私は、ステイ先のホテルで、部屋の中に鍵を忘れて出かけてしまうことが何度かありました。

ホテルならスペアキーですぐに開けてもらえます。しかし、1人暮らしのマンションでは、そうはいきません。誰もドアを開けてくれる人がいないので大変です。そして、ついに今のマンションに越してきて7年、先日それをやらかしてしまいました。

友人とランチの約束をしていたオフの日でした。


窓を全開にして部屋の掃除を済まし、あとは気持ちよく出かけるだけの状態です。そろそろ約束の時間に近づいてきたので、家庭ごみを捨てに行ってから、待ち合わせ場所に出かけることにしました。

ゴミ置き場は同じ階にあります。


自分の部屋から目と鼻の先なので、玄関のドアを少し開けっぱなしのまま、鍵を持たずにゴミを捨てに出たのです。お出かけ用の服装で、ゴミ袋を片手にビーチサンダルをひっかけ部屋を出ました。

ゴミ置き場にいると、私の部屋のほうから、思い切りドアが閉まる音が響いてきました。その日は、たまたま強風が吹いていて、私は窓を開けていたため、その風で玄関のドアが閉まってしまいました。

今まで、風で玄関のドアが閉まることは一度もありませんでした。慣れ親しんだ部屋で、大丈夫だろうと気を抜いた結果です。

高級ホテルでのランチ用に選んでいた大人っぽい服装に、ビーチサンダルというアンバランスな格好で部屋から閉め出された私。

合い鍵は部屋のオーナーが持っているのみです。ベランダの窓は開けっぱなしですし、財布も携帯電話も全て部屋の中です。オーナーに連絡しようと思っても、電話がないのでどうしようもありません。

フライト前じゃなかっただけ、不幸中の幸いではありますが、それでも、友人にも連絡が取れず、待ちぼうけさせてしまいます。鍵を持たずにゴミ捨てに行ったほんの数分前のことを強く後悔しながら、とりあえずマンションの1階にある管理事務所にかけ込みました。


「鍵を部屋の中に置いたまま閉め出されちゃいました。携帯は部屋の中に置いてきてしまって、オーナーに連絡できなくて困っているんです」

管理人のおばちゃんがすぐにカギ屋さんに電話してくれましたが、到着まで数時間はかかるとのこと・・・、

「それは困ります。友人との約束の時間ももうすぐだし、しかもベランダの窓も開けっぱなしにしちゃってるんです!」(完全に自分のせい)

とにかくしつこく泣きつくと、

「あ、それだったら・・・」

おばちゃんは、ふと思いついたように、別の案を口に出しました。

「今隣の空き地で工事しているでしょ。そこの誰かに、部屋の上の階から、あなたのベランダに綱で降りてもらって、中から鍵開けてもらいましょうか」

「は?」

「いや、だからあなた、ベランダの窓開けっぱなしにしてるんでしょ?上の階の部屋、今、ちょうど空き部屋で誰も住んでいないから、そこのベランダからあなたの部屋に 降りてもらいましょうよ」

「えぇ!?そんなこと頼めないですよ。危ないですよ!もう大丈夫です、鍵屋さん待ちます!」

「ハハハ、大丈夫ですよ~」

おばちゃんは自分が降りるわけじゃないのに、何が大丈夫なのか?私の部屋は7階です。もし手が滑ってしまった場合のことを考えると、そんな危ないこと、さすがに頼めません。

しかし、“そんな迷惑をかけられない!”という思いと、あまりにも管理人が普通に提案してきたので、“この国ではこういうこと普通なのかな?”と考えたり・・・。“確かに友達を待たせずに済むな・・・” “何時間もカギ屋さんを待たなくてもいいしな・・・”
という気持ちも芽生え始め、頼んでしまおうかと微妙に揺れ動いていると、

「ね、そうしましょう。カギ屋待つより早いですよ。じゃあ誰か協力してくれる人呼んで来るよ!」

彼女はすぐに工事現場に向かいました。ものの2、3分も経たないうちに、小柄な筋肉質の、たった今まで現場作業をしていたのだろうというような風采の男性を連れて戻ってきました。その男性は、無表情で片手に太いロープを持っています。その姿を見て、危なさを実感してやはり恐くなった私。

「やっぱりもういいです!彼の手が滑って落ちてしまったら大変ですよ。私のうっかりミスで起こしてしまったことに巻き込んで、命の危険だってあるし、こんなこと頼むわけにはいきません!」

「大丈夫、大丈夫、落ちませんって。せっかく彼、来てくれたのだから、今さら追い返すほうが失礼ですって・・・」

おばちゃんは、私の手を引っ張り、工事現場の彼とさっさとエレベーターに乗り込みました。上の部屋に着くと、彼はロープをベランダの桟にぐるぐる巻き始めました。自分の身体にもロープを何重か巻き、しっかり固定したことを確認すると、何のためらいもなくするすると降りはじめました。

男性が私の部屋のベランダに無事着地するまで、私は恐くておばちゃんの腕にしがみついていました。友達でもない人にしがみつくなんて、初めての経験でしたが・・・。

私の心配もよそに、彼は10秒も経たないうちに、さくっと私の部屋のベランダに着地しました。そのまま部屋の中に入ってもらい、無事に鍵を開けてもらったのでした!私がロックアウトしてから合計30分ほどの出来事でした。

「お礼はどのようにしたらいいですか!?」

と興奮冷めやらぬまま聞いたら、

「少し多めにチップをお渡ししたら充分ですよ」

管理人の彼女からアドバイスされた額は、日本円に換算しても600円くらいのものでした。私の礼の言葉も特に気にせず、チップを受け取ると彼はさっさと工事現場へ戻っていきました。信じがたいですが、彼にとってはちょっとお小遣い稼ぎしたようなイメージかもしれません。実際に、ロープを使ってベランダに降りてくれた彼も、その彼に頼もうと思いついた管理人も、度胸がありすぎませんか?

確かに、この国の工事現場を見ていると、命綱のようなものも何もつけずに、高層マンションの工事をしている姿を頻繁に見かけます。この国の人たちは、高い所が平気なのか、ヘルメットもなしで平気でウロウロしているので、その姿には本当に驚かされます。

日本生まれ育ちである私は、今まで安全で出来過ぎた環境の中で育ってきたからでしょうか。働く側の健康や安全が考えられた仕組みになっているのは、先進国ならではのことなんですね。東南アジアでは、いくら首都とはいえ、まだまだ危険な状況の中で働いている人々がほとんどなのだと実感させられます。

そんな環境の中で働いている彼に救われた先日の私。

便利で安全過ぎる日本で生活できることは、とてもありがたいことだと思います。でも、普段口だけは達者で、いざ何か起きた時にどうすることもできない私よりも、この国の人たちの方が、よほど肝が据わっているし、サバイバル能力が断然高いだろうなと思い知った一日でした。

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No 28 オフも元気な本国人CAたち

師走ですね。


今年は、一度も風邪をひかなかったし、このまま一度も寝込まずに年を越せそうだと思いながら12月に突入しました。

安心した矢先でした。月初めの頃です。喉の辺りに原因不明のひどい炎症が起こりました。

病院に駆け込み、この時ばかりは、普段飲まないようにしている薬を処方してもらいました。特に、喋る時と食事を飲み込む時に、喉が尋常じゃないほど痛み、数日間ろくに食事もできませんでした。

治った後、食べ物をすんなり飲み込めることに、“あ~、なんて幸せなんだろう”と、健康である尊さを実感し、感嘆の声をあげたくらいです。はっきりとした病名は出ませんでしたが、結局、私自身は疲れのせいだと思っています。

体力勝負の仕事なのに、オフの日にちゃんと休まず、いろいろな予定を詰め込んでいたのです。そのため、疲れが知らずのうちにたまっていたのでしょう。喉は本当に辛かったですが、自分の普段の生活を考えるよい機会にもなりました。

機内での空き時間に、何気なくタイ人CAと話すことが、同じように自分の生活を見つめ直すきっかけになることもあります。

話し相手のタイ人CAは、やはり自然と同年代になります。

“休みの日は何をして過ごすか”というのは、高い確率で出てくる話題の一つです。ただ同じ話題でも、入社したばかりの8年前と30代に入った今とでは、中身が変わりました。

入社当時は、若者らしく、ジムに行く、飲み会、習いごと、町の中心まで買い物に出かける等々が主だったように思います。しかし最近は、自分も年齢を重ね、話し相手になってくれる同世代のタイ人CAたちも落ち着いてきました。子育て、大学院に通っている、新しい事業を始めた、家業の手伝いという話を聞く機会が増えました。

入社してすぐの頃は、本国人CAに対して、常夏の国の穏やかな人たちというイメージを単純に持っていました。休みの日には、あまり物事を深く考えず(かなり失礼ですが)、のんびり過ごしている人がほとんどなのかと思っていたのです。

しかし、一見のんびりして見えるタイ人CAたちの方が、私よりも断然、精力的に活動していたのです。

詳しく、彼らがどんな休みを過ごしているかというと・・・。

ある男性CAは、この仕事を生かして大学でホスピタリティを教えています。別のフライトでは、友人と共同経営のカフェのオープン準備に励んでいるというCAに会いました。

また、自分がモデルになって洋服をオンライン販売しているという美人CAもいます。知り合いの若夫婦の乗務員たちは、地方から出てきた生徒専用の学生寮を運営しており、子どもたちに囲まれる賑やかな休みの日を過ごしているそうです。もちろん、何をするにも本業の客室乗務員の仕事に支障が出ない程度に、というのは大前提ですが。

休みの日に、ただ寝たり遊んでいたりするのはもったいないと考えるバイタリティのある人たちが案外多いのです。そんな彼らの姿を見て、“自分もオフの日を充実させよう!”と、私は触発されてきたのです(笑)。それが、疲れが溜まって体調を崩すという結果になってしまいましたが・・・。

そもそも私は、この航空会社の客室乗務員ということで、外国人用のワークパミット(就労許可証)を発給してもらっています。CAとして、この国での就労が許可されています。したがって、私たち日本人は、基本的に、この会社以外での就労はNGなのです。

自国であるからこそ、会社の規則からはずれない程度に、休みの日にも、副業のようなことや個人的な活動をできるのは、本国人だからこそ、ともいえるかもしれません。

私の場合は両親も日本ですし、いつかは日本に戻りたいと考えることもあります。実際に海外に住んでから、日本のよさを再発見したことも事実です。どこの国にいても、どんな仕事をしていても、何かしら将来に迷うことはあります。

フライト以外でも活躍している本国人CAたちから、刺激は常にもらいます。でも、体が少ししんどい時には無理せずに休む、今はそれを第一優先に考えようと思います。

その次に、自分のできる範囲で、私は人間力を磨くことを大切にしたいです。たくさん本を読んで知識を増やし、航空業界以外の人たちにも会って視野を広げることを心がけていきたいと思っています。

なぜかというと、機内は特殊な空間であり、何が起こるかわかりません。また、文化の違いのために問題が起きることもあります。日本人CAとしての対処法の正解がなかなか見つけられず、むずかしく感じることが今まで何度もあったからです。

乗務するメンバーも毎回変わるので、その都度タイ人CAたちに適応していく必要もあります。いつもマニュアル通りの問題が起こるわけではなく、そんな時に、自分の人間力が試されるような気がするからです。

喉の炎症は辛かったですが、それ以外には、仕事でもプライベートでも、特に大きな事故にも遭わず、今年も無事にフライトができました。ときには、体調を崩すこともありますが、基本的に丈夫な身体を保ちながら、好きな仕事をできていることはありがたいことです。

来年は、もう少しオフの日にしっかり体を休ませることを優先しながら、自分なりの充実した過ごし方をしようと思っています。

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No 29 機内で体調不良になると・・・

機内では、色々な症状の体調不良を訴えるお客様がいらっしゃいます。

飛行機内で起こる病気と聞くと、まずエコノミー症候群を思いつく方が多いかもしれません。でも、実際にもっと頻繁に起こる、飛行機酔いや食あたりなど、挙げ出したらきりがないのです。

雲や強風の影響で機体がよく揺れる時は、飛行機に乗り慣れているはずのCAでさえも、空酔いで苦しんでいる姿を見ることもあります。

私自身は幸いにも空酔いとは無縁ですが、入社してすぐの頃酔い止めを飲んで乗務していた同期を見て、驚いた記憶があります。(さすがに、今はもう彼女も簡単には酔わなくなったそうです)

今まで私が乗務した中では、体調不良を起こすほとんどが、観光客の方々でした。思う存分旅を満喫した疲れが、帰りの便で出てしまうのでしょうか。 下痢・吐き気・発熱といった症状や、貧血を起こして倒れてしまう方もいます。

機内には、すぐに使えるように絆創膏や飲み薬、塗り薬などが常備されています。ただ本国のものなので、日本人旅客の中には、海外の薬に抵抗があるという方もいらっしゃいます。

 

 

以前、急にからだ全体に赤い発疹が出てしまった日本のお客様がいました。原因も不明で、不安な上、じっとしていられないほどの痒さらしく、とても苦しそうにしてらっしゃいます。でも機内で搭載されていたのがご自身の知らない塗り薬だったため、それを塗り込むのには抵抗があるとおっしゃいます。

冷やすことで、かゆみが緩和されると教えてもらったことがあったので、薬代わりに、氷や冷たくしたタオルを用意して、患部にあてていただいたことがありました。飛行機が到着した頃には、だいぶ落ち着かれた様子だったので、ほっとしました。

これはCAの先輩から聞いた話ですが、以前、ギャレーで転げまわるほど激しい腹痛を訴えた方がいらっしゃったようです。その便には、幸運にも乗客の中にお医者様が乗ってらっしゃいました。色々と診ていただいたところ、最終的に便秘が原因ではないかということだったそうです。

世間でよく耳にする“便秘”・・・。


多くの人が(特に女性?)経験のあることだし、大したことにはならなそうなイメージがありますね。 しかし、深刻なものだと、その時のお客様のように、耐えきれない痛みに襲われることもあるみたいです。

その場合の機内での対処法は、水分をなるべく取るようにしてもらい、お腹を優しくマッサージして、とにかくお通じをうながすようにとのことだったようです。

 

 

あと、日本のお客様で多いのが、胃が痛いので、胃薬はないかとおっしゃる方々です。タイ人旅客からは、頭痛がするからと、痛み止めを頼まれるケースがほとんどです。胃を悪くするのは、神経が細やかな人が多い日本人特有の病気なのでしょうか・・・?

先日のフライトのことです。


キャレーに、一人の東南アジアの男性客が入ってこられました。

「気持ちが悪いので、薬ください」

辛そうな表情をしてらっしゃいます。症状を聞き、それに合ったお薬をお渡ししたほんの数分後、お客様はそのままギャレーの中で吐いてしまいました。気の毒なことに、よほど気持ちが悪かったのでしょう。

私は、ギャレーの壁とそのお客様に挟まれるようにして立っていました。制服は汚れ、足の踏み場がなく、身動きが全く取れなくなってしまいました。吐しゃ物は、感染の恐れもあるため、ただ拭き取るだけでなく、専用の清掃キットが機内に搭載されています。

まずエプロン、マスク、手袋を装着してから、粉を吐しゃ物に振りかけて固めます。そして、専用の塵取りを使って片づけます。他のCAたちがすぐにかけ付けてきてくれ、お客様のケアと、清掃を始めました。

私は、そんなてきぱきと処理をしているタイ人CAたちを眺めるしかありませんでした。

よく見ていると、特に一人の男性CAが、率先して掃除をしてくれていました。元々、「あの人、ちょっとチャラチャラしているなぁ」と、冷ややかに見ていた人だったのですが、この一件で完全に見直しました(笑)。ギャレー内は元通り。

私自身もできる限りの洗浄をし終え、その男性CAにお礼を言いに行ったら、

「別にいいよ。こんなこと日常茶飯事だし・・・」

と、自分がたった数十分前に掃除したその場所で、ピザを頬張っていました。私は、ちょっと前に、目の前で繰り広げられたイメージがまだ頭から離れず、すぐには食欲が出なかったのですが・・・。

彼は「もう終わったことだし、もういいよ」という感じです。この、引きずらないところは、本当にこの国の人たちの強みだと思います。

「私ならそんな風に流せない!」

という出来事にも、

「別にいいじゃん」

というような感じでスルーしている姿をよく見ます。この国の人たちに根付いている、寛容な精神ですね。タイ人CAたちは、世界中の色々な場所や旅客、事件を見てきている経験があるからこその、堂々たる

「別にいいじゃん」

もあるでしょう。ケロリとすぐに食べ物を頬張る彼を見ていて、その図太さが羨ましくもなり、自分も小さいことにくよくよしてられないな!と思わせられたフライトとなりました。

私たちCAは、飛行機が到着してしまうと、病気になってしまったお客様がその後どうされているのか、聞く機会はまずほとんどありません。機内で自分たちの仕事に集中するのみです。それが寂しく感じたことも正直あります。

でも、限られた時間と場所の中で、できる限りのことをしたいし、しないといけないのだと自分に言い聞かせています。

ちなみにその大々的に吐いてしまったそのお客様は、到着後、颯爽と元気に降りていきました(笑)。私の制服は汚されてしまいましたが、すぐに回復なさった姿を見られたのが、せめてもの救いでした。

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No 30 問題が起きたときの対処の違い

仕事をしていて、

「今日は気を引き締めていこう!」

という日ってありませんか?私の場合は、日本人旅客が多数占めるフライトの時です。
(いつも気を引き締めるべきだとは思いますが・・・) タイ人旅客がほとんどの便と、日本人旅客が多い便では、神経の使い方が違います。

何か問題が起きた時、私は通訳として日本人旅客とタイ人CAの間に入るのですが、 “あれ、いつの間にか、私個人がお叱りを受けている?”ということがよくあります。それが、海外の航空会社に雇われている私の役目だと分かっているつもりでも、やはり疲れはどっときます。

ただ最近は、逆のパターンも増えてきました。数年前から、訪日するタイ人旅客が増えているからです。本国人のお客様を相手に、私がなかなか伝えられないことなどを、タイ人CAにお願いしてフォローしてもらいます。これぞチームワークですよね。タイ人CAにとっては、本国人旅客が多いフライトは、疲れがどっとたまるようですが(笑)。

タイ人も日本人も、世界中を見回すと、サービスには厳しい国民性ではないかと思います。相手の顔の表情に敏感なのも、どちらも同じ。ただ、気をつけているつもりでも、同じ国籍でないと、微妙なニュアンスが通じないことがあります。

例えば、日本人旅客は、口角が上がっていても、心の内ではかなりお怒りだという場合があります。その感覚は、同じ日本人としてはわかりますよね。考えてみると、日本語で「笑」という単語、たくさんありますね。

「失笑」「苦笑」「爆笑」「微笑み」「愛想笑い」

などなど・・・。しかし、タイ人CAは、

「顔が笑ってらっしゃるから、もう怒ってらっしゃらないでしょ」

という風に判断してしまいます。日本人同士だと気づいて当たり前ということでも、国籍が違うと通じないこともあります。

以前、エコノミークラスの日本人旅客から、機内食に関して、ご意見をいただいたことがありました。

お魚の煮つけだったのですが、少し生臭さが残っているとのことでした。

すぐにチーフパーサーの判断で、魚の代わりに召し上がっていただけるものとして、ビジネスクラスのメインの料理を準備することになりました。パーサーと担当していたタイ人CAの二人で、お客様の元へ伺い、

「この度は大変申し訳ありませんでした。ビジネスクラスのお食事をお持ちいたしました。

よろしければ召し上がってください。機内食の担当部署には我々から報告をあげておきます」

しかし、その後も晴れない表情をされていたお客様。


「ビジネスクラスのメニューの中でも、特に好評のお食事をご提供したから、お客様も満足してくださると思っていたのだけど…」とパーサー。

言葉が違うため、お互い意思疎通が難しかったということもあるのでしょうか。そのお客様の元に伺うと、新しく準備したお食事に全く手をつけてらっしゃいませんでした。

「別にわざわざビジネスクラスの食事が欲しくて、クレームを挙げたわけじゃなかったのです。ただ、今後の参考にしていただきたかっただけです。もう食事は結構です」

と気分を害されてしまっていたのです。確かに、多くの日本人は、何か物が欲しくてクレームをしているわけではないかも・・・。

「じゃあ何を求めているの?何をすればいいの?」

とよくタイ人CAにも問われますが、答える時いつも考え込んでしまいます。

別の便で、赤ちゃん連れのお母さまがご搭乗されたことがありました。やはり日本の方です。その日の便は満席。


一つの座席で、赤ちゃんを抱っこしながらの約6時間のフライトです。希望されていた赤ちゃん用のバシネット(壁掛けベッド)は、赤ちゃんの年齢が規則より超えていて使えませんでした。さらに、なんとそのお母さまの座席のパーソナルテレビが故障していました。座席を変わっていただこうにも、全クラス空席はなし・・・。

代わりに時間をつぶしていただけるよう新聞や雑誌をお持ちしましたが、読もうとしても寝ている赤ちゃんが起きてしまいそうです。


チーフーパーサーも、ビジネスクラスのお持ち帰り専用のポーチや、ファーストクラスのデザートをお持ちしました。しかし、綺麗に盛ったファーストクラスのデザートフルーツ盛り合わせをお渡ししたところで、赤ちゃんを抱きながらテーブルを出し、召し上がるのも一苦労です。

ビジネスクラスのポーチにしても、ただでさえ赤ちゃんの哺乳瓶やおむつ等でカバンを

いくつも抱えてらっしゃるのに、荷物が増えてしまいます。そうこうしているうちに、

「もしかして私、CAさんたちに、何かを催促しているように思われていますか?映画が観るのはもう諦めたし、これ以上クレームするつもり別になかったんですけど・・・」


とおっしゃいました。

タイ人CAとしたら、そもそも赤ちゃんをずっと抱えたままで、身動きが取れないのはすごく気の毒な状態です。さらに、空の醍醐味の一つといえる映画を観ていただけないなんて、本当に申し訳ない。少しでも何か、今自分たちができることで喜んでいただけないか、気持ちを盛り上げることはできないかというサービス精神の表れであったのです。

先ほどの機内食の問題に関しても、どうにかお客様に気持ちよく過ごしていただきたいという一心のつもりです。しかし、日本のお客様には、それがご機嫌取り、押しつけがましい、と感じさせてしまいました。

「見返りに何か欲しいと思われているんじゃないか」

と誤解を招いてしまったのです。

両方の価値観を理解している私が、それをうまくお伝えできればいいのですが、10年近く飛んでいても、いまだに悩むこともあります。少なくとも、出来事や問題をCAの皆と共有するように心がけてはいます。


その方が、互いの国民性をより分かり合えるようになるのではないでしょうか。より快適に過ごしていただけるサービスにつながるはずです。今後も、今以上に本国人旅客が増えてきそうなので、私も色々と新たに学ぶことが増えそうです。

入社当時は、決まったとおりのお食事やドリンクのサービスを、CAたち皆でこなすことがチームワークだと思っていました。タイ人旅客が増え、私自身もタイ人CAに助けてもらう場面が多くある今、それぞれの価値観の違いを、互いにフォローしあうことも、大きなチームワークといえるのだなと学んでいます。

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No 31 努力は報われる?

日本も本格的な夏が始まりましたね。


お肌の毛穴の開きや、日中の化粧崩れが気になります。私は、自分の肌にあまり自信がありません。メイクをしてもすぐに崩れるし、乗務後の肌なんて、近づいて見ないで!という感じです。

でも、今の職場は美意識の高い人々の集まりです。

 

そんな彼らに囲まれて過ごしていると、自分もちゃんとしないわけにはいきません。自信のない肌をどうにかするため、高額な美顔器を使用したり、エステに行ったりしています。

スキンケア用品は、ハイブランドのものからナチュラルコスメまで、

様々なタイプのものを試したりもしました。

しかし、どれも自分の肌に合っているようなそうでないような・・・。結果が出ているような、別に変わらないような・・・。大体大きな変化と納得を感じることはあまりなく、

「結局は変わらないのかな」

と諦めかけたりもしました。だって、何も特別なことをしていないのに、元々肌の綺麗な友だちもたくさんいます。

「結局は生まれもったものだよね」

という人もいました。体型だってそうです。よく食べても痩せている人はいるし、少しの量を食べただけで、すぐに体重が増える人もいます。

「太りやすい体質だから」

と、夜の炭水化物を控え、ジムに通い、やっと体重をキープしている友人もいます。でも別の子は、

「親が痩せているし、自分も太らない遺伝受け継いでいるから」]

と言って、好きなように食べています。

体重にしても、肌のきめにしても、継続的に高いお金をかけて、プロの手を借りるでもしない限り、大きな変化はないのでしょうか。そんなお金の余裕もないし、あきらめモードになりかけていた私。そんな中、先日のフライトでとても興味深いことを聞いたのです。

同じ会社で働く男性乗務員です。


かっこいい男性アイドルのような見た目に惚れ惚れするのですが、残念ながら彼の恋愛対象は男性です。仕草は本当の女性以上に上品だし、40歳とは思えない若々しさでいつもキラキラしています。肌は綺麗で、髪の毛は艶があり、体は引き締まっています。

彼は日本が好きで、日本便によく乗務するので、日本線専門の私はしょっちゅう会えるのです。機内での空き時間には、大体美容や健康について話しています。

彼はコスメ一つにしても、原材料まで調べており、おすすめのブランドを教えてくれたりします。

はやりの健康食の情報もよく知っていて、いつも影響を受けます。

そんな彼との話の中で、たまたま家族の話になりました。彼には双子の弟さんがいて、小さい頃の二人が並んだ写真を見せてもらうと、一卵性双生児でそっくりです。今は違う仕事をしていて、別々に暮らしているらしいです。

弟さんの恋愛対象は女性で、既に結婚をしてお子さんもいるのだとか。

「これが弟の家族だよ」

現在の写真を見せてもらいました。

そこには、小さな可愛らしい子どもと、母親であろう女性、そして父親なのでしょう、小太りの中年男性が写っています。スリムな外見の彼と、瓜二つであるはずの弟さんは見当たりません。

「弟さんこの中にいないよね?」
「いるよ、これだよ」
「ええー!?」

その中年おじさんが彼の双子の兄弟でした。頭は軽く禿げていて、ふっくらとしていて、私の友人と全然一卵性の双子に見えません。よく見てみると、目元が確かに似ているかなという程度です。

「驚くでしょ。今はもう全然似てないんだよ。僕は若い頃から、ちゃんと肌のお手入れはしていたし、食べるものにも気をつけて、エクササイズもしていたの。でも弟は、タバコは吸うしお酒は飲むし、ジャンクフードも気にせず食べていたから、肌もよく荒れていたよ」

ほぼ同じDNAのはずなのに、これほど変わることがあるんですね。

強い意識を持つことと、努力を続けることが大事なんだなと、心底思い知らされました。(彼の弟さんは、美容には興味がなかったというだけで、勉強には彼以上に精を出したらしく、弟さんの方が頭は良いそうです)笑

確かに考えてみれば、私は食に興味があり、学生時代の頃からずっと食べるものにはこだわりをもち、気をつけて食べてきました。

そのおかげか、風邪はまず引かないし、フライトを休むほど体調を崩すこともほとんどありません。無意識にでも、食生活をそれなりにきちんとしていたおかげで、今の丈夫な体があるのかもしれません。

美肌への道を断念したのだって、長く続けることなくすぐに結果が出ないといって諦めていただけでした。やっぱり彼の話を聞き、生まれつきだと決めて諦めるのはもったいない気がしました。

努力次第で、結果は大きく変わるものなのですね。


もう少し、美肌と体重キープのために、努力を継続してみようと思います。

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No 32 休みを取ることの大切さ

ここ1年ほど、人員不足のため、フライトの本数が一気に増え、仕事に追われる日々を過ごしていました。


自炊しようと思って、食材を買っても、結局、すぐフライトに出てしまうので腐らせてしまうし、食事は自然と機内食と外食が増えました。自炊を大切にしている私には、なかなかのストレスです。


フライトを続けて飛べば飛ぶほど、持病の腰痛も徐々に悪化しました。もちろん労働基準内での忙しさではあるにしても、三十路をとっくに過ぎた身です。忙しいフライトスケジュールを飛び続けることで、心身ともに疲れ気味の今日このごろです。

そんな、疲れがMaxになりかけた頃、以前から申請していた有給が入りました!(人員不足だといっても、有給はちゃんともらえるのが外資らしい)。待ちに待った2週間のお休みです。

今までは休みになると、どこか遠い国へ旅行に出かけたり、友人のやっているセミナーに泊まりで参加したりと、ひたすら動き続けていた私でした。

「せっかくの休みなんだから、どこかへ行かないと、何かをしないと」

と思っていました。でも今回は、今までと違って、特別なことはせずに、ゆっくりして過ごしてみようと決めたのです。ずっと行きたかった国内のビーチリゾートに1泊だけして、あとは日本の実家に帰り、愛犬、愛猫との時間をメインイベントにして、のんびり過ごしました。

すると、休みの最後らへんには、仕事に戻るのが楽しみになってきていました。流れ作業になりがちだった自分の仕事ぶりを思い出して反省をしたり、恵まれた環境で働かせてもらっているんだなという感謝が湧き上がったり・・・。この休暇のおかげで、私はやっぱり働くことが好きなんだと再認識しました。

休み明けすぐの機内では、

「あ~、この場所に戻ってこられてよかった」

とさえ思いました。日本人が海外に出てから、日本のよさを知るというのに似た感覚でしょうか(笑)。普段の生活って、つい当たり前になりやすくて、感謝が減ってしまうものですよね。でも私は、少し離れてみることで、初心に帰ることができました。

今は、ゆっくりできた有給も終わり、またいつも通りフライトに追われる日々です。不規則な生活に戻りました。持病の腰痛がまた気になりだしています。昨日も、変な時間帯に機内食を食べてしまい後悔したところです。でも、気楽でマイペースな国民性のタイ人CAたちに囲まれて働いていると、

「なんか私ばっかり働いてない!?」

という今まで持っていた不満が、

「この穏やかさに助けられて、私はここにいるんだよなぁ」

と、思えるほどのゆとりを持てるようになりました。

20代の頃、この会社に入社して3年目くらいの時でした。体を壊し入院をしたことがあります。最終的にトータルで1ヶ月弱、仕事を休ませてもらったことがありました。その時には、仕事に復帰しても、今回のようには感じなかったから不思議です。

世界を飛び回っている華やかなイメージのCAですが、仕事内容は、言ってしまえば、肉体労働で、機内サービスという名の単純作業の繰り返しです。


同僚を見ていても、しばらくすると飽きてくるという人も少なくないのが現実です。飽き性で、好奇心旺盛な私も、そうなるのかなと思っていました。でも違いました。この国に来てから8年経ちますが、その時間をかけて、いつの間にかこの仕事とこの国、そして人がすごく好きになっていたんですね。

世間では、仕事の休みを自分のペースで取れる人もいれば、自営業などでなかなか休めない人、色々だと思います。私の実家は自営業なので、両親は、土日もほとんど関係なく、高齢になった今でも働いています。


私が小さい頃は、休んでいるところをほとんど見たことがありませんでした。そんな環境で育ったからか、とにかく働くことの大切さは昔から身に染みて感じてきました。

でも今は、働くことの大切さと同時に、休むことの大切さにも気がつきました。今回の私の有給のように、2週間も普通はなかなか休めません。1、2日だけでも、いつもの環境や場所から離れて、じっくり休んでみると、見えてくることがあるかもしれません。

腰痛予防のストレッチを面倒くさがらずに続けて、明日のフライトも楽しみたいと思います。

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No 33 ここの国の感覚

先日、友達と外食に出かけていた時のことです。

 

ラストフライト

 

知り合いの先輩のタイ人CAから、突然電話がかかってきました。「急だけど明日、社内のビデオレターの撮影をするから、ちょっと手伝ってくれない?」


彼女はフライトの他にも、会社のボランティア活動や、色々なイベントに参加していて、愛社精神の強いCAです。

「ビデオレターの撮影の手伝い?」

はっきり何をするのかわからなかったものの、フライトを始めてもうすぐ10年になる今何か新しいことに挑戦してみたいという思いもありました。それに加え、彼女には普段世話になっていたので、二つ返事で依頼を受けました。

「いいですよ。何時からですか?制服着ていったらいいんですか?」

と聞くと、

「助かる!じゃあ明日朝の9時にあなたのコンドミニアムに車で迎えに行くね」

「あと、服装は制服じゃなくてスーツ着てくれる?」

「ビジネスライクな恰好でお願いね。本当ありがとう!」

との返答です。

“スーツは、確か数年前に着たものがクローゼットの奥にあったような・・・。ただ、中に着るシャツがもう古くなってるなぁ。”

一緒に食事していた友達に事情を話し、早めに夕食を切り上げてもらいました。その後すぐに、洋服店に寄り、シャツを購入して家に帰りました。

明日の準備も万端

そろそろ寝ようとベッドに入った頃、彼女からメールが届きました。そのメールには、A4半分程度の量の台本が添付されていました。

「明日あなたに読んでもらうスクリプト一応送っておくね」
「え、まさか私が出演するってこと?」
「そうよ!でも台本は暗記する必要はないから大丈夫よ」

何千人もいる客室乗務員の同僚たちが見るビデオレターに出演だなんて、目立つのがあまり得意でない私にはかなりのプレッシャーです。


暗記する必要はないと言われたけど、いつも自分が納得するまで練習をしないと気が済まない心配性の私です。 “私一人ではなくて、他のCA仲間たちと何人かで分けて読むのだろうけど…”と思いながらも、念のため台本の内容を頭に入れておきました。

さて翌朝、撮影日です。


昨日言われたビジネスライクな恰好として申し分のない上下黒のスーツを着て、待ち合わせ5分前には自分の住むコンドミニアムの前で、彼女の迎えを待っていました。

しかし待ち合わせ時間になっても迎えは来ません。心配になりメッセージをしたら「今向かってるから」という1通の返信のみ 結局、彼女が到着したのは約束の1時間後

「お待たせしてごめんね。道に迷っちゃって!」

この国の人たちの時間感覚が日本人と違うのは分かっているので、遅刻されるのは慣れっこです。ただ問題はその次でした。

「あ、それから、スーツではなくて、やっぱり制服に着替えてきて!」
「え!?スーツって昨日言ってなかった?!」
「ごめんね、私の勘違いだったの」

“それならさっき待ってた1時間の間に連絡くれてたら準備できたのに・・・。

”早く言ってよ~”

”昨日だって、友達に早く切り上げてもらってシャツを買いに行ったのに~!” 

色々思うところはありましたが、言われた通り部屋に戻り、急いで制服に着替えました。

さて、なんとか会社に到着です。この時点でもうお昼前、やっと会社のビデオレター撮影開始かと思いきや、

「まず担当部署のトップが、あなたの外見チェックをするからちょっとこちらへ来て」

と、連れていかれました。急に制服に着替えさせられた上に、ヘアセットも普段よりも急いで仕上げたので微妙なスタイル。

メイクも最初に来ていた黒のスーツに合わせた、会社の制服には負けそうなナチュラルなものです。

「あなた、アイシャドウとリップの色をもっと足して・・・」

とのご指摘を受けました。”最初から制服って分かっていたら、もうちょっと華やかなメイクしてたのに・・・”

しかし、いちいち反論や反応していても自分が疲れるだけです。とにかく無理やりメイクを濃くして、やっと撮影です。部屋に入ると、立派なカメラが2台あるのが見えて、一気に緊張してきました。何人かスタッフはいますが、制服を着たCAは私一人しかいません。


“まさか私一人?”


声をかけてくれた本国人CAに、

「あなたも一緒に出演するのよね?」

と、すがる気持ちで聞いてみると、

「私はしないわよ。あなた一人よ。ファイト!」
「そんな~!!??」

もうここまで来たし、うじうじ恥ずかしがっていられません。腹をくくった瞬間、撮影スタッフから衝撃の一言が出ました。

「君、台本は覚えてるよね?」
「え!?暗記しなくてもいいんじゃ…?」

ここまで最初に言われていたことと実際の内容が違うと、逆に呆れて笑えてくるものです。昨夜、練習したおかげで、台本はほとんど頭に入っていたので、すぐに台本なしで撮影することができました。表情が硬かったり、言い間違えをしたり、すぐにスムーズにはいかず、何度か撮り直しをしました。でも最終的には、

「初めての撮影にしては、すごくよくできていたよ。ありがとう」

と言ってもらえました。一安心です。

本当に色々と振り回された一日でしたが、“終わりよければすべてよし”ですね。 何はともあれ、普段の機内での仕事とは違う、よい経験をさせてもらいました。

この航空会社に入社してから、タイ人のマイペースであやふやな文化の中で、だいぶ鍛えられたなぁとも思います。今となっては、仕事やプライベートどちらでも、ある程度の変更やプレッシャーにも耐えられそうな気がします(笑)。

それにしても、フライト以外の仕事や活動をすることも楽しいものだと実感しました。
それに、同じ会社に在籍していても、普段は機内で客室乗務員たちとしか関わりがありません。今回色々な部署の担当をしている人たちとも出会えて、仕事も色々とあるのだなと体感することができてよかったです。

たまには普段と違うことに思い切ってチャレンジするのもよいものですね。

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