塾長からひとこと

あるデパートでは、大人のお客様のことを「お成り」、子供を「小の字」、自分たちが食事する場所を、喜んで座るところから「喜座場(きざば)」、トイレを「神閣(しんかく)と社員同士で呼んでいます。お客様がいるところでは、「トイレに行く」とは言いにくいので、「ちょっと神閣に行ってきます」と仲間に声をかけます。これらの社員用語はデパートごとに違っています。Crewの世界でも同じようにCrew言葉があります。どの航空会社も、それぞれCrew言葉(社員用語)を使って仕事をしています。他社のことをちょっと覗いてみませんか。

AirlinesとAirways

自社を英語名で呼ぶときは、JALは"Airlines"、ANAは"Airways"を使っています。アメリカの影響を強く受けている航空会社の多くは、自社名にAirlinesをつけています。一方、British Airwaysに見られるがごとく、英国の影響を受けている航空会社は"Airways" を使っています。JALが、その昔、国際線進出にあたってユナイテッド航空に運航方式の多くを学びました。米本土での最初の就航地サンフランシスコでは、私たちCabin Crewも、出発に際して、UALのオペレーションセンターに出頭しブリーフィングを行なっていました。そして、当初より、機材も米国ダグラス社製を使用していました。したがって、JAL系Crewが使用している航空英語は米語が中心となっています。一方、ANAが最初に投入した機材は、英国デ・ハビラント社製のDHタブと呼ばれる飛行機でした。そして、1986年に国際線に本格参入するにあたっては、国際線機内サービスを、英国系航空会社であるキャセイ航空に多くを学びました。それらの成り立ちから、ANA Crewは、どちらかというと英語の影響を受けています。

WagonとTrolley

機内備品やItemを呼ぶときにも、違いが出てきます。たとえば、ファーストクラスやビジネスクラスでは、サービスワゴン(Wagon)を使用してのサービスすることがあります。JAL系では、"Wagon"と呼び、ANA系では"Trolley"と呼んでいます。筆者が教官の頃、担任クラスのイギリス人やアイルランド人Crewに、「ファーストクラスではワゴンでサービスを行なう」と説明したところ、「私たちは、Wagonと聞くと、アメリカの西部開拓時代の幌馬車をイメージします。機内で使用するのはTrolleyであって、絶対にWagonではありません」と反論されたことがあります。Airways系の会社はTrolleyを使っています。

Crew用語

英語・米語の関係以外にも、航空会社によって、職場や風土の違いから、異なる言い方をしていることがあります。一泊便用に持ち歩くバッグが、ステイバッグ(ANA)だったり、オーバーナイトバッグ(JAL)であったり、バッグを載せて引いて歩くものをキャリー(ANA)、キャリアー(JAL)と呼んだりしています。滞在手当てのことを、JAL系ではパーディアム(Per diem)と呼んでいます。とてもアメリカ的な言葉です。本来は「日当」という意味です。ANA系では、ステイ費となっています。外資系では、Meal AllowanceのようにAllowanceを使っていることが多いようです。

Cabin AttendantとFlight Attendant キャビンアテンダントとフライトアテンダント

言葉の質問箱などで、CAとFAの違いについてあれこれ書いてありますが、いずれの回答もあやふやなところがあります。現Crew、元Crewにはその経緯を知っておいていただきたいと思います。

キャビンアテンダントは、JALで生まれた言葉で、1960年代ごろから使っていました。そして、1970年に放送されたドラマ「アテンションプリーズ」や、その後の「スチュワーデス物語」で使われ、世間に知られるようになりました。当時、JALでは、まだまだ「スチュワーデス」「スチュワード」の名称を使っていました。1980代になると、米国で起きたポリティカルコレクトネスの影響で、この名称が使いづらくなりました。そこで、米国では、「Flight Attendant」を新たな名称として使うようになりました。その後、JALをはじめ米語の影響を受けている国では、「Flight Attendant」を使うようになりました。「Flight Attendant」は、アメリカで生まれた米語ですので、英語圏ではほとんど使いません。英語圏では、従来から使っている「Cabin Crew」を使っています。また、現場Crewの間では、昔から、パイロットは、「Cockpit Crew」、客室乗務員は「Cabin Crew」を使っていました。そして、各社とも、略語を使っていました。JALでは、Cockpit Crewは、頭文字から「C/C」、Cabin Crewも「C/C」を使いたいところですが、それではまぎらわしいので、Cabin Attendantの「C/A」を使うようになりました。FAは米語ですが、英語圏でも通じるように、CAは、日本で使われるようになった和製英語ですが、現在では、英語圏でも、米語圏でも通じます。さらに詳しくはこちらへ


AirwaysからAirlinesヘトランスファー

ANAのようにAirwaysに在籍していたCrewが、JALのようなAirlines系に移籍すれば、使っている用語の違いに戸惑うことでしょう。一方、エミレーツ航空やカタール航空への移籍でしたら、同じAirways系ですので、用語を理解するのにそれほど時間がかからないかもしれません。

2010年頃まで、JALの子会社でジャルウェイズ(JALways)という会社がありました。ホノルル、グアム・サイパンのリゾート路線やバンコクに飛んでいました。この会社が新たな試みとして、出身航空会社にかかわらず、元CAを短時間乗務員として採用していました。ANA出身のCAも多くいました。JALで使っている用語が、自分たちが習ってきた用語とずいぶん違うので、JAL用語に慣れるまで大変だった。救難訓練などでついANA用語が出てしまい、教官から指摘されたという話もよく聞きました。

 

最後に

CAとして飛び始めの頃、どの会社でも、同じ専門用語を使い、同じやり方で機内サービスを行なっていると思いがちになります。塾長自身がそうでした。スチュワーデス塾を開設し、多くの航空会社の方と接してみて初めて、違う言葉を使い、違う考えでサービスに当たっていることが分かりました。そこで、手始めに、JALグループとANAグループについて研究してみることにしました。これを読んだ外資の皆さん、「うちではこういう言い方をしています」というのがありましたら、ぜひお知らせください。「外資特集」も行ないたいと考えています。

当塾には、最高で、6社での乗務を経験している会員がいます。2社、3社経験の方も多くいます。日本人CAも、これからは、さらに航空会社間の移籍が盛んになる時代になってきます。同じことを指すにも、違う表現をしています。自分たちが使い慣れていない表現も知っておけば、他社移籍時の面接にも役に立つことでしょう。また、他社CAとのコミュニケーションに役立てば幸いです。
                                  
                                                CA用語比較講座TOPへ